過去20年間の日本経済(GDP)の推移をグラフで眺める(購買力平価GDP編その1)
※最新(2020年10月)のIMF予測については、以下のエントリーをご覧ください。
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
- 世界経済における日本の立ち位置、日本と諸外国との経済力の現状をざっくり把握したい方
この記事には以下の内容が書かれています。
前回のエントリーでは、1人当たり名目GDPを使って、日本の世界経済における立ち位置をグラフで表現してみました。
これを見ると、日本経済は1995年時点の1人当たり(名目)GDPでは、G7の中で他を大きく引き離してトップであったにもかかわらず、現在では下位グループに転落、国全体の(名目)GDPも成長が停滞しており、世界経済の成長から取り残されている様子がわかります。
しかし、一方で1人当たり購買力平価GDPの指標を使うと、また違った姿が見えてきます。このエントリーでは、米ドル換算した1人当たり購買力平価GDPを用いて、日本経済の世界における立ち位置をグラフで表していきたいと思います。
購買力平価GDPとは
購買力平価は英語でPPP(purchasing power parity)とも略しますが、1人当たり購買力平価GDPとは一体何でしょうか。ここでは、簡単にWikipediaの説明を引用します。
各国または地域で産み出された付加価値の総額の比較は、名目国内総生産(GDP)と為替レート(通貨換算比率)を用いて行われることが多いが、これは国や地域ごとの生活のコストを反映しておらず、また国家間の資本移動の影響をうけやすい。市場取引における為替レートではなく、その地域の生活関連コストやインフレ率や収入の差などの要素を考慮した購買力平価(PPP)を用いることで、貿易や国家間投資のような、国際間資本移動の影響を受けにくいレートで比較することができる。
なお人口規模の算定や購買力平価(PPP)の推定には誤差が含まれる可能性があり、小さな違いに意味があると考えるべきではない。5%未満のGDPの違いは、推定の許容誤差内にあると一般に認められている。
要するに、生活コストやインフレ率などを考慮したレートを用いて1人当たりGDPを比較することで、各国の生活の実質的な豊かさを比べることができる、ということです。もちろん、現実には購買力平価(言い換えれば各国の物価水準)をたった一つの値で評価することは不可能なので、数値には相当程度の誤差が含まれる*1ことを認識する必要がありますが、それでも大まかな傾向をグラフで見るのであれば十分に有用だと思われます。
ただし、これは1人当たりGDPとして用いる場合に有用、ということであり、これを国全体のGDPの話に拡張して、購買力平価GDPを用いて比較をすると、あまり意味のない議論になると思われます。たとえば購買力平価GDPで見ると、中国がすでにアメリカを上回っていますが、それに何の意味があるでしょうか。国と国の経済規模を比較するのであれば、やはり名目GDPで比較をしないとあまり意味がないのではないか、というのが個人的な見解です。
IMFのデータベースの見方
前回のエントリーでは、日本の総務省統計局のデータを利用しましたが、このデータベースでは2012年以降の購買力平価GDPのデータしか掲載されていません。
そこで、今回はIMF(国際通貨基金)が公表しているWorld Economic Outlook(WEO:世界経済見通し)というデータベースを使って、グラフを作ることにします。なお、WEOは、春と秋(通常4月と9月/10月)に発行され、年2回(1月と7月)アップデートされているとのことです。
英語なので少し分かりにくいのですが、現時点の最新である2019年4月時点でのデータベースは、こちらのページから誰でも無料でダウンロード可能です。エクセルファイル形式ですので、すぐに分析を開始することができます。
ダウンロードして開いてみると、そのデータ量の大きさに驚くと思います。何しろ、全世界194の国・地域における、計45個のマクロ経済指標について、1980年~2024年の実績値・推計値が一覧で格納されています。大雑把に194×45×45年分=約40万近い数値が格納されています(もちろん欠損値も多いのですが)。ビッグデータの時代においては大したデータ量ではないかもしれませんが、質が高いので、使い方によっては宝の山になるかもしれません。
45の経済指標のうち、よく使用すると思われるものを、以下に一覧にしてみましたので、実際にダウンロードしてデータを活用しようと思っている方は参考にしてみてください。データベース上は、C列の「WEO Subject Code」というフィールドが経済指標を表しています。基本的にはC列の「WEO Subject Code」で見たい経済指標を選択し、D列の「Country」で調べたい国をいくつか選ぶことで、簡単にグラフを作ることができます*2。
WEO Subject Code | Subject Descriptor | Units | 日本語 |
---|---|---|---|
NGDP_R | Gross domestic product, constant prices | National currency | 実質GDP(自国通貨建) |
NGDP_RPCH | Gross domestic product, constant prices | Percent change | 実質GDPの成長率 |
NGDP | Gross domestic product, current prices | National currency | 名目GDP(自国通貨建) |
NGDPD | Gross domestic product, current prices | U.S. dollars | 名目GDP(USドル建) |
NGDPRPC | Gross domestic product per capita, constant prices | National currency | 1人当たり実質GDP(自国通貨建) |
NGDPPC | Gross domestic product per capita, current prices | National currency | 1人当たり名目GDP(自国通貨建) |
NGDPDPC | Gross domestic product per capita, current prices | U.S. dollars | 1人当たり名目GDP(USドル建) |
PPPPC | Gross domestic product per capita, current prices | Purchasing power parity; international dollars | 1人当たり購買力平価GDP(USドル建) |
GGXWDG | General government gross debt | National currency | 政府総債務残高 |
GGXWDG_NGDP | General government gross debt | Percent of GDP | 政府総債務残高の対GDP比 |
BCA | Current account balance | U.S. dollars | 経常収支 |
BCA_NGDPD | Current account balance | Percent of GDP | 経常収支の対GDP比 |
G7・G20における日本の1人当たり購買力平価GDP
さて、さっそくG7の各国の1980年以降の1人当たり購買力平価GDPをグラフにしてみました(以下、2024年までの推計値も合わせて表示します)*3。
どうでしょうか。日本だけが取り残されていたように見えた名目GDPのグラフと比べて、日本は他の先進国と同じように成長しているように見えないでしょうか。逆に言えば、バブル期において、特に日本が突出して豊かであったということはなく、昔からアメリカが一番豊かであり、日本は他のG7の国と同じようなスピードで成長してきただけなのだ、とも考えられます。なお、現時点ではG7間でも少しずつ差が開いてきており、購買力平価GDPにおいても1人当たりGDPが米>>加独>英仏日>伊となるのは、名目GDPと同様です。参考までに、前回のエントリーで掲載した1人当たり名目GDPのグラフを再掲します。
近年、日本はすでに後進国に転落した、などと煽る記事も多いのですが、このグラフを見る限りそのような言説をあまり真に受ける必要はなさそうです。決して日本の生活水準が他の先進国と比べて大きく下がっているということはありません*4。
少し安心したところで、次に範囲をG20に拡大して、グラフを作成してみます。そうすると、また少し違った姿が見えます。
G7+オーストラリアの8か国が上位にいる構造は、基本的には名目GDPと同じですが、サウジアラビアがかなり謎の動きを見せています。これは例外としても、それ以外の国々も、名目GDPで見るよりも、1人当たりGDPを大きく伸ばしていることが分かります。
特に注目すべきは韓国です。韓国はすでにイタリアを1人当たり購買力平価GDPで上回っており、なんとIMF推計値によると、2023年には日本も韓国に抜かれる予測となっているのです。実は1人当たり購買力平価GDPで見ると、日本はすでに他のアジアの国々に抜かれています。少し長くなったので、今日のエントリーはここまでとして、次のエントリーで、アジアにおける日本の立ち位置をグラフで比較してみたいと思います。
*1:もちろん名目GDPの測定自体にも誤差はあるわけですが、それ以上に購買力平価GDPには誤差が大きい、という意味です。
*2:データベースの一番右の列に「Estimates Start After」というフィールドがあります。この数字によって、どこまでが実績値で、どこからが推計値かを知ることができます。たとえば「2018」と記載されていれば、2019年以降の値は推計値となります。
*3:WEO Subject CodeはPPPPCを選択しています。
*4:蛇足ですが、圧倒的に裕福なアメリカでトランプ大統領が誕生し、その次に位置するドイツでも極右勢力が台頭。そしてイギリスはBrexitで大混乱しており、フランスでもデモが活発化。このような状況下で客観的に見て、主要先進国のなかで日本の置かれている状況は決して悪いとは言えないように思います。もちろん日本にも課題が山積していることは確かで、思い切った対応が求められていることは確かなのですが、それでも隣の芝生が青いわけではない、ということだと思います。
過去20年間の日本経済(GDP)の推移をグラフで眺める(名目GDP編)
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
- 世界経済における日本の立ち位置、日本と諸外国の経済力の現状をざっくり把握したい方
この記事には以下の内容が書かれています。
- G7における1人当たり名目GDPを見ると、1995年時点では日本が圧倒的なトップでしたが、現在では米>>加独>英仏日>伊のイメージです
- 国全体の名目GDPでは、米中が大きく躍進する中、日本は20年間ほとんど成長せず2位から3位に転落、4位のドイツもすぐ下に迫っています
先日、日本経済がなぜ成長してこなかったか、という内容のエントリーを書きました。
このエントリーでは、過去の日本のGDP(国内総生産)の推移を諸外国と比べることで、今現在の世界経済における日本の立ち位置をグラフで示してみたいと思います。GDPデータは総務省統計局のデータ(1995年~2016年)を利用しています。エクセル形式でデータがダウンロードでき、簡単にグラフを作ることができますので、興味のある方は是非試してみてください。
https://www.stat.go.jp/data/sekai/0116.htmlwww.stat.go.jp
以下、諸外国との比較になりますので、米ドル換算の名目GDPを使用します。GDPそのものについては、下記のエントリーでも簡単に解説していますので、合わせてご覧ください。
1人当たりGDPの推移
G20(EUを除く19か国)と世界平均の1人当たりGDP推移をグラフにしてみましたので、ご覧ください。一人当たりGDPは、大まかに言うと、各国の1人当たりの国民の豊かさを表していると考えられます。
グラフを見るといろいろなことが読み取れます。
1995年時点では、日本はG7の中でも圧倒的に高い1人当たり国内総生産を誇っていたが、2000年以降欧米諸国に追い抜かれ、今ではG7の中でも下位グループに属している(イタリアのおかげで何とか最下位にはなっていない)。G7内の序列は、米>>加独>英仏日>伊のイメージ。
1995年時点では、G7+オーストラリアの8か国と、それ以外のG20に属する11か国との間に、1人当たりGDPの水準に大きな差があった。全体的に差が縮まっている中で、韓国とサウジアラビアが大きく躍進しており、特に韓国はG7最下位のイタリアに肉薄している状況。
1人当たりGDPで見ると、中国は大きく成長しているものの、まだ世界平均にも達していない状況であり、G7グループとは大きな差がある。
日本との比較をするために、日本を100%として、G20における上位10か国と世界平均について1人当たり名目GDPをプロットしたのが下図になります。
これを見ると、残念ながら日本がどんどん諸外国に追い抜かれていった状況がよくわかります。。
ちなみに、韓国の1人当たり名目GDPは、1995年時点では日本の30%ほどだったのが、今では80%にも達しています。現在日韓関係が非常に悪化していますが、昔の感覚で韓国の経済力を甘く見ていると痛い目にあうかもしれません。
国全体のGDPの推移
次にG20(EUを除く19か国)について、一人当たりではなく、国全体の名目GDPをグラフにしたのが下図になります。
これを見ると、日本の低迷ぶりがより一層はっきりするとともに、ここ20年間の世界経済においてはアメリカの一人勝ち状態であり、中国がそれを激しく追い上げている状況が一目瞭然です。日本は米ドル換算の名目GDPでは過去20年間でまったく成長しておらず、すでにドイツに肉薄されていることがわかります。日本経済が順調に成長していれば、今の2倍くらいの経済規模になっていてもおかしくなかったのですが。。*1
1995年時点と、2016年時点の上位20か国の名目GDPを並べたのが下図になります。
ふたつのグラフの形はよく似ていますが、大きな違いは2位が日本から中国に入れ替わっていることです。日本は第3位以下のその他集団の中に埋没しつつあります。
ちなみに、ここでは上位20か国を図示していますが、G20に入っていない国がいくつかあります。2016年時点で見ると、スペイン、オランダ、スイスは20位以内ですが、G20には加盟していません。やはり、欧州における大国は独英仏伊で、この4か国で十分ということなのでしょう。もしG10という枠組みであれば、スペインとオーストラリアも入っていたのかもしれません。そして、オランダ、スイスはヨーロッパでは小国のイメージですが、一人当たりの生産性が高いため、経済規模で上位20位以内をキープしています。
一方、韓国も1995年時点から現在に至るまで、世界で第11位の経済規模を維持しています。そしてロシアは世界で第13位で、これも20年間変わっていません。ロシアは世界で大きな影響力を持っていますが、経済力で見れば、アメリカの足元にも及ばず、韓国にすら負けている状況です。国力を軍事力に極振りした結果、世界での影響力を維持していると見るべきなのでしょう。*2
統計的仮説検定の考え方と誤解
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
- 統計学に苦手意識のある方
- 「統計的に有意な結果が得られた」という記述を見て、その内容を正しいと思ってしまう方
この記事には以下の内容が書かれています。
- 統計的仮説検定は、確率的な背理法です
- 統計的に有意な水準で差異があることと、差異自体に重要性があることとはまったく別の話です
- 「統計的に有意な水準で~」という記述自体には、実はあまり意味がなく、逆にミスリーディングとなる可能性があります
先日、エンジニアの友人と会話をしていたところ、統計学は普段使わないから実はあまり分かってないんだよね、という話になりました。そこで私の理解を少し話したのですが、その内容を簡単にまとめておきたいと思います。なお、私自身は経理マンでして、統計の専門家ではありませんので、もし誤りがありましたらご指摘いただけると幸いです。
統計的仮説検定とは
「検定」や「有意水準」などの言葉を聞くと身構えてしまう方もいると思いますが、そんなに難しい話ではありませんので、例を一つ挙げたいと思います。
1枚のコインがあるとして、これを6回放り投げたところ、6回連続で表が出たとします。このとき、このコインは何か細工がしてあると言えるでしょうか?
通常のコインであれば、裏表が出る確率は半分ずつとなるはずです。このとき、6回連続で表もしくは裏が出る確率を計算すると、表が6回出る確率は1/2を6回掛けて1/64、表と裏の両方を考えると2/64=約3%となります。この3%をどう評価するか、という話になります。3%しか起こらないのであれば、コインに細工がされているに違いないとも言えますし、逆に3%も起こり得るのであれば、やはり普通のコインなのではないか、とも言えます。
この3%の値を統計学ではp値(p-value)と呼んでいます。そして、これを評価するために出てくるのが「有意水準」という考え方です。たとえば有意水準を5%とすれば、p値が5%を下回っているので、統計的に有意な水準でコインには細工がされている、と言えることになります。一方、有意水準を1%とすれば、p値は1%よりも大きいので、統計的に有意な水準で結論は出ない、ということになります*1。
これがまさに統計的仮説検定の考え方になります。ここでは、「コインには細工がなされておらず、裏表が出る確率は半分ずつ」という仮説を置いています。これを「帰無仮説」と呼びます。このとき、帰無仮説の反対、すなわち「コインには細工がなされていて、裏表が出る確率は半分ずつではない」という仮説を「対立仮説」と呼びます。
「帰無仮説」を正しいと仮定して、実際に起きた事象が起きる確率であるp値を計算し、これが有意水準を下回っていれば、「帰無仮説」を棄却して「対立仮説」を採択する、という流れになります。これはいわゆる背理法的な考え方であり、統計的仮説検定は、確率的な背理法であると言えます。
なお、よくある勘違いとしては、もしp値が有意水準を上回ったとしても、「帰無仮説」が採択されるわけではないので、注意が必要です。コインの例でいうと、有意水準を1%に設定すると、p値は3%なので「帰無仮説」を棄却することはできませんが、このときは「統計学的には何も言えない」というのが正しい結論になります*2。
区間推定と検定
実は統計的仮説検定には問題があるとして批判がされることがあり、検定ではなくて区間推定を使うべきという意見があります。検定と区間推定は本質的には同じものですが、区間推定とは何かについて、ごくごく簡単に記載します。
区間推定においては、信頼区間という概念が登場します。詳細は割愛しますが、たとえばAというダイエット薬があるとして、これを何人かに投与して効果を測定したところ、効果の平均値は25gだった場合、区間推定を行うと、統計的に95%信頼区間では20~30gの減量効果があった、といった形で結論を導くことができます。このとき、薬の効果は正しくは何gなのかを考えるにあたり、大体20~30gの間に正しい値が含まれているだろう、と考えることができます*3。
このとき、仮に統計的仮説検定を行い、帰無仮説を「Aの効果はない」とした場合、有意水準を5%として、帰無仮説を棄却することができます。なぜなら95%信頼区間の中に「ゼロ」が含まれていないからです。たとえば、95%信頼区間が-10~60gという範囲であった場合、この区間には「ゼロ」が含まれるので、仮説検定を行うと、有意水準を5%とすると帰無仮説を棄却することができず、「Aの効果があるとは言えない」という結論になります。
統計的仮説検定の問題点とよくある誤解
統計的仮説検定が使われる場面として、二つのものを比べて有意に差があるかどうか、というケースがよくあります。たとえばAとBの二つのダイエット薬があり、Aの効果の95%信頼区間が20~30g、Bの効果の95%信頼区間が40~60gとなった場合、AとBの95%信頼区間が重なっていないため、有意水準を5%として、AとBとの間には統計的に有意な水準で差異があるとみなされます。
しかしながら、ここに一つ落とし穴があります。信頼区間の幅は標準誤差に影響を受けますが、この標準誤差はサンプルサイズ*4を大きくすると小さくなる性質があります*5。そのため、たくさんのデータを集めれば、信頼区間の範囲を狭めることができます。
そうすると、大量のデータを集めた結果、たとえばAの効果の95%信頼区間が20~20.5g、Bの効果が95%信頼区間が21~21.5gだったらどうでしょう?この場合であっても、有意水準を5%として、統計的に有意な水準で差異があるとみなされます。しかし、本当にAとBに実質的に差異があると言えるでしょうか?これはケースバイケースですが、このくらいの差異であれば、差異の重要性が小さく、AとBとの間に実質的に差異がないと言えるケースもあるのではないでしょうか?このとき、大切なポイントとしては、その差異が実際にどのくらい大きいのかを考える必要があるということです*6。
そのためには、検定で有意かそうでないかを機械的に判定するのではなく、区間推定を行って、その信頼区間の範囲を比べて重要かどうか判断することが必須になります。なぜなら、データ数を増やしてサンプルサイズを大きくすれば、検定をした際に統計的に有意な結論を導くことができてしまうからです。二つのものを比べる場合、一般的には、厳密に両者が完全に等しいということはあり得ないため、データ数を増やしていけば、どこかで統計的に有意な差が検出されることになります。
極端な話、検定を行った結果「統計的に有意な水準で差異が認められた」*7という文章自体にはほとんど意味がないのです。それは、有意水準が書かれていないという問題もありますが、それに加えて、どのくらいの差異があったか、という最も重要な情報が抜け落ちているからです。統計的に有意な水準で差異があること(statistically significant)と、差異自体に重要性があること(practically significant)とはまったく別の話なのです。このことが多くのケースで認識されておらず、ときに深刻な誤解やミスリーディングを招いているように思います*8。
*1:有意水準の水準として5%や1%という値自体にあまり意味はありませんが、慣例的に5%や1%が利用されることが多いです。
*2:このように、有意水準をどの水準に置くかで結論が変わってしまいます。今回のようにp値が3%の場合に、結論ありきで有意水準として5%を選択するというのは、本来であれば厳禁であり、試行を行う前に有意水準や試行回数を決めておく必要があります。もっとも、実際には結論ありきになっているケースも多いようで、このあたりが統計的仮説検定への批判につながっているようです。
*3:よくある勘違いとして、正しい値が20~30gの中にある確率が95%である、という誤解があります。正しい値は神のみぞ知る値として確定していますので、20~30gの間に入っているか、入っていないかの2択しかありません。正しくは、95%信頼区間を求める測定作業をランダムに100回実施したときに、95回はその区間の中に母平均が含まれる、という解釈になります。ただ、いずれにしても、大体20~30gの間に正しい値が含まれているだろう、と考えて問題ありません。
*4:蛇足ですが、サンプルサイズとサンプル数は異なる概念であり、よく混同されるので注意が必要です。サンプルサイズは測定したデータの数を表しています。サンプル数は、データの塊であるサンプルがいくつあるかを表しています。
*5:標本平均の標準誤差は、標準偏差をサンプルサイズの平方根で除した値となります。
*6:もちろん小さな差異であっても、それが実質的に重要な意味を持つというケースもあり得ます。
*7:新聞の記事など、統計にあまり詳しくない方が書いたと思われる文章において、よくこのような言い回しを見ることがあります。
*8:これは統計的に有意であることを、英語でsignificantということも関係しているように思います。ここでのsignificantには統計的に有意ということ以上の意味はなく、重要という意味ではないのです。
結局、過去20年間で日本は経済成長したのか
3つのGDP
平成の時代は、失われた20年とか30年とか呼ばれることがありますが、これは平成の時代に日本がほとんど経済成長をせず、世界経済におけるプレゼンスを大きく低下させてきたためである思われます。経済成長をしないということは、つまりGDPが伸びなかったということですが、このGDPにも3つの種類があります。
バブル崩壊の影響が本格化した1992年(平成4年)を起点として、それから20年後のアベノミクスが始まった2012年(平成24年)、そして直近の2018年(平成30年)の3時点を比較する形で、GDP数値を確認したいと思います。なお、ソースは以下のサイトとなります。
(円建) | 1992年 | 2012年 | 2018年 | 1992~2012年の伸び率 | 2012~2018年の伸び率 |
---|---|---|---|---|---|
名目GDP | 495.0兆円 | 494.9兆円 | 549.0兆円 | ▲0.0% | +10.9% |
実質GDP | 423.4兆円 | 498.8兆円 | 534.4兆円 | +17.8% | +7.1% |
(ドル建) | 1992年 | 2012年 | 2018年 | 1992~2012年の伸び率 | 2012~2018年の伸び率 |
---|---|---|---|---|---|
名目GDP | 3.90兆ドル | 6.20兆ドル | 4.97兆ドル | +58.7% | ▲19.9% |
購買力平価GDP | 2.70兆ドル | 4.73兆ドル | 5.59兆ドル | +75.0% | +18.3% |
年率換算すると、伸び率は以下の通りです。
(円建) | 1992~2012年 | 2012~2018年 | 1992~2018年 |
---|---|---|---|
名目GDP | ▲0.0% | +1.7% | +0.4% |
実質GDP | +0.8% | +1.2% | +0.9% |
(ドル建) | 1992~2012年 | 2012~2018年 | 1992~2018年 |
---|---|---|---|
名目GDP | +2.3% | ▲3.6% | +0.9% |
購買力平価GDP | +2.8% | +2.8% | +2.8% |
なお、下記のエントリーでグラフでも示していますので、是非こちらもご覧ください。
GDPを時系列で比較して見えてくること
上表を見ると、1992年~2012年の20年間で、残念なことに日本の名目GDP(円建)はまったく増加していなかった、ということがわかります。これが「失われた20年」と呼ばれる理由になっていると思われます。そしてアベノミクスが始まって以降は、名目GDPの年率の成長率がゼロから+1.7%に増加しています。まだ先進国平均である2~3%には及びませんが、ようやく最悪の状況を脱しつつあると評価することができます。
一方で、失われた20年など存在しない、日本経済は平成の時代も成長し続けてきた、と主張する人もいます。それは実質GDPや購買力平価GDPを見て評価しているからでしょう。特に購買力平価GDP(ドル建)は、アベノミクスにかかわらず、1992年以降は一貫して+2.8%の高成長を続けています。これでも先進国平均には及ばないのですが、それなりに健闘していたといえるでしょう。たしかに生活実感として、20年以上前と比べると、パソコンなど非常に高価だったものが安価で入手できるようになる、スマートフォンを持つのが一般的になるなど、生活は確実に便利になってきており、そういう意味では平成の時代がまったく成長していないという指摘は当たらないとも言えます。
ちなみに名目GDPをドル建てでみると、アベノミクス以前はプラス成長、それ以降はマイナス成長となっていますが、これは為替レートが円高から円安に大きく振れたことが要因です。一国の経済の大きさをそのまま示す名目GDPの成長率を見るにあたっては、自国建ての通貨で見るのが正当であり、この数値をもってアベノミクス批判をするのは筋が悪いように思います。様々な意見があると思いますが、アベノミクスで名目GDPが増加して、約500兆円の水準から約550兆円の水準に上昇したことは評価すべきだと思います。
蛇足ですが、もうすぐ参議院選挙が行われます。一般感覚として野党の戦況はよろしくないですが、安倍政権をこき下ろして完全否定するだけでは、あまり支持は拡大しないように思います*1。安倍政権の一定の成果を認めたうえで、それでも「我々が政権を取れば、さらに経済成長率を先進国平均並みに引き上げて、国民生活を豊かにすることができる」という主張を組み立てた方が、支持を得られるのではないかと感じます。
日本経済復活のために
購買力平価GDPで見れば、日本経済は成長しているとも言えるのですが、しかし名目GDPがほとんど伸びてこなかった以上、世界経済における日本のプレゼンスが大きく低下してしまったことは事実です。このままでは、日本は外国と比べて生活は比較的しやすいけど、物価が安くて貧乏な国になってしまうとも言えます。
日本経済が低迷した原因として、下記のエントリーでは、日本企業が日本国内に投資してこなかったことを要因として挙げました。
これはヒト・モノ・カネで言うと、モノ・カネの話ですが、ヒトの観点からすると、日本では人材の流動性が低いということがよく問題点として挙げられます。日本の大企業では、40代、50代になるにつれて給料が上がるため、会社を辞めなくなる、といった話です。昔であれば、経験を積んだ50代の人たちの生産性が高かったのでしょうが、変化が激しく技術がすぐに陳腐化する今の時代において、過去の経験があまり活かせなくなるにつれて、給料は高いのに生産性が低い人たちが量産され、そういう人たちが会社にしがみついているため、生産性が上がらないのだ、というわけです。
たしかにそれはその通りで、人材の流動化を促進することは大きな課題の一つですが、一方で、大企業の生産性はそもそも比較的高く、日本の大部分を占める中小企業の生産性が低いことが、日本の低成長につながっているとの指摘もあります。これは人材を流動化するだけでは解決しない問題であり、いかに中小企業の生産性を上げるのかが、もう一つの大きな課題であるように思われます。方法としては、政府の補助金を廃止する、最低賃金を引き上げて生産性の低い企業を淘汰する、といった過激な方法もありますが*2、いずれにしても日本経済復活のためには避けては通れない課題だと思います。
日本経済はなぜ低成長なのか
世界の中で日本経済がなぜ低成長なのかという問題について、最近考えていることをまとめたいと思います。私自身は、経済学部出身ではありませんし、(経理マンですので)経済の専門家でもなく経済学の知識が乏しいので、明白な誤りがありましたらご指摘いただけると幸いです。
なお、日本のGDPの推移は、IMF(国際通貨基金)のデータを用いて、下記のエントリーでグラフで表現していますので、是非ご覧ください。
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
- 日本経済の低成長の理由について、今後の成長可能性について興味のある方
この記事には以下の内容が書かれています。
- GDPの三面等価の原則と貯蓄投資バランスについて
- 経済成長と景気回復との違いについて
- 日本経済の低成長の理由として、国内で企業による十分な投資が行われず、積みあがった貯蓄が国債を通じて巨額で非効率な政府支出に支出され、生産性(TFP)向上のための投資が行われなかったことを挙げています
GDPと三面等価の原則
日本経済が低成長であるというのは、すなわち日本のGDP(国内総生産)の成長率が低いということですので、まずはGDPについて説明をする必要があります。
GDPは、ある一定期間に国内で生み出された付加価値(儲け)の総額です。GDPは国の経済力を表す指標であり、ご存知の通り、日本のGDP成長率は、世界平均はもちろん、先進国平均と比較しても低い水準で推移しています。
ここで、GDPを①生産、②分配(所得)、③支出(購入)の3つの視点から見てみます。結論から言えば、同じものを3つの視点で見るので、定義上これらは全て等しくなり、これを「三面等価の原則」*1と呼んでいます。順に見てみましょう。
① 生産面から見ると、GDPは国内の総生産ですので、以下の式が成り立ちます。
- GDP = Y(生産)
② 分配面から見ると、GDPは国内の総所得と等しくなります。国内で生み出された付加価値は、国民に分配されるからです。分配されたものは、消費され、残りは貯蓄されます。
- GDP = C(消費)+ S(貯蓄)
③ 支出面から見ると、GDPは国内の総支出と等しくなります。生産されたものは、必ず誰かの支出によって購入されるからです*2。支出には、消費と投資の2つがあります*3。
- GDP = C(消費)+ I(投資)
3つのGDPは定義上等しくなり(三面等価の原則)、②③を見ると、「C + S = C + I」となることから、「S = I」、つまりマクロ経済においては貯蓄と投資は等しくなります*4。
これは単純な内容で、おそらくマクロ経済の授業の初回で習うような事項だと思うのですが*5、一般的に理解されていないケースが非常に多いです。そのため、たとえば、貯蓄を取り崩して消費に回せばGDPが回復する、といった俗流経済学が幅を利かせることになります。実際には、貯蓄されたものはすでに投資され(貯蓄=投資)、GDPに計上済なので、貯蓄をおろして消費に回したとしても、マクロ経済全体ではGDPに影響はありません。
こう書いてもまだピンとこない方もいると思いますが、イメージとしては、我々が貯蓄したお金は、銀行によって即座に国債購入や貸付金に回されて投資されています。なので、たとえば国債購入に回っているのであれば、政府支出として公共工事に使われ、道路や橋となっています。銀行は金利を支払わなければならない以上*6、預かったお金をそのまま寝かせておくことはできず、最低限の準備預金を残して、それ以外はただちに投資に回されているのです。
GDPは知らない人がいないほど重要な経済指標ですが、多くの誤った言説が巷に溢れており、具体的には下記のブログの内容がとても参考になります*7。
貯蓄投資バランス(ISバランス)
上記では簡単のため、外国の存在を無視しましたが、一般にはこれを考慮し、さらに民間と政府とを区別して、GDPを以下の算式で表します。
GDPを分配(所得)面から見ると、消費と貯蓄のほかに、政府への税金の支払いTがあります。一方、GDPを支出(購入)面から見ると、民間による消費と投資の他に、政府による支出Gがあります。さらに、外国が支出(購入)しますので、これを輸出と輸入の差として表しています*8。
三面等価の原則により、これらのGDPは等しいですので、分配GDPと支出GDPが等しいと置いて式変形すると、以下の算式が導かれます。
- S – I = (G – T) + (EX – IM)
これがISバランス式と呼ばれる恒等式であり、定義上必ず成立する重要な式となります。「S – I」は貯蓄から投資を差し引いているので貯蓄超過、「G – T」は政府支出から税収を差し引いているので財政赤字、「EX – IM」は輸出から輸入を弾いているので貿易黒字を表します。すなわち、「貯蓄超過=財政赤字+貿易黒字」となります。
これを解釈すると、日本国内で貯蓄が超過している分(=民間で投資する金額が不足している)、政府が財政赤字として国債を発行してお金を使い、残りは貿易黒字として外国がお金を使っていることになります*9。
もっと詳しく知りたい方は、上と同じ出典ですが、下記のブログが参考になります。
経済成長と景気回復との違い
さて、ここで改めて経済成長について考えておきたいと思います。よく混同されるのですが、「経済成長」と「景気回復」とは別のものです。
- 経済成長:生産GDP=Y(生産)の水準を引き上げること
- 景気回復:不況によって経済活動が落ち込んでいるときに(つまり供給>需要のときに)、支出GDP=C(消費)+ I(投資)+ G(政府)+ (EX– IM)(純輸出)を回復させること
不況時においては、需要が供給を下回るため、支出GDPの主要な構成要素である消費や政府支出が重要になってきます。しかし、いくら消費や政府支出を増やしても、生産GDP=Y(生産)が増えるわけではないので、供給能力を超えた経済成長はできません。もし支出GDPを増やすことで経済成長できるのであれば、国債を大量に発行して政府支出を増やすだけで、自動的に経済成長できることになりますが、もちろんそんなことはありません。
経済成長するためには、生産GDP=Y(生産)の水準を引き上げる必要がありますが、これには以下の3つの要素が必要になるとされています。
- 労働力
- 資本…生産のための設備
- 技術革新…生産技術の進歩による生産性(Total Factor Productivity:TFP)の向上
詳しくは、また上と同じ出典ですが、下記のブログをご覧ください。
日本経済の低成長の要因
さて、GDPと経済成長に関する説明は以上の通りですが、ここまで来れば、日本経済が低成長である理由が見えてきます。日本は大幅な民間貯蓄超過になっており*10、それが主に財政赤字となって政府によって支出されています。つまり、国民や企業が貯蓄したお金は銀行が国債に投資し、結果的に非効率な政府支出として使われているのです。その結果、生産性(TFP)が向上しなかったことが、日本経済が低成長になっている理由だと考えます。多様な民間の投資主体が、それぞれの思惑で成長性のある分野に各々投資をすれば良かったのですが、実際には政府が国債を発行してバラマキ政策を行うことで、生産性(TFP)向上につながらない巨額の投資が長年にわたって行われてきたのです*11。
最近読んだ書籍の中に、松元崇著『日本経済 低成長からの脱却』(NTT出版)という本があります。当書の「はじめに」にて以下の記載があります。
一人当たりの所得が伸びなくなったのは、一人当たりの労働生産性が伸びなくなったからだ
その原因は、…(中略)…、日本企業が国内で成長のための投資をしなくなっているから
私も同感です。なお、日本企業は投資をしていないわけではなく、海外で投資をしているのです。上場企業の収益は好調ですが、その要因の多くは海外で投資をして海外で稼いだ利益であり、日本国内での経済成長に直接つながっていないのです*12。日本企業による海外への投資は貿易黒字となり、そして対外純資産として積みあがっています。日本の対外純資産残高は世界一の規模となっています。
日本国内での民間投資が少ない理由として、一般的に、日本には投資機会が少ない、潜在成長率が低いなどと言われることが多いですが、当書では、終身雇用制が制約となって、日本では企業が思い切った投資ができないことを理由として挙げています*13。
また、国民心理という観点では、伊丹敬之著『経済を見る眼』(東洋経済新報社)という書籍において、以下のように述べられています。
成長しなくなってしまった今の日本の最大の問題は、国民の心理的エネルギー水準の低迷なのだろう。その心理的低迷が何によってもたらされたか。そこから抜け出すためにどのような道があるのか。それを、経済の深刻な問題として考える必要がありそうだ。(p110)
経済は未来への動きを原動力に発展していく生き物である。そこでは、将来の期待と心理が経済を動かす要因として大きな役割を果たすだろう。…(中略)…政府の政策も、民間の努力も、もっと期待と心理に焦点を当て、どのようにして委縮しがちな心理からの転換を図れるか、その道を探る必要があるだろう。(p125)
いずれにしても、もっと民間企業が日本国内に投資する環境や風土を作っていくことが、日本経済再生のカギであるように思います*14。
フロー(GDP)とストック(国富)について
最後に、フローとストックについても触れておきたいと思います。GDPはフローの概念ですが、これに対応するストックの概念として「国富」というものがあります。これは、GDPのうちI(投資)が積みあがったものであり、GDPを生み出すために必要不可欠な資産です。経済成長の要素(労働力、資本、技術革新)の一つでもあり、国民資本とも呼ばれます。
具体的には、主に土地、建物などの固定資産と対外純資産から成ります。国富は投資によって増えますが、(土地を除く)固定資産は使えば使うほど減耗するとともに、自然災害などによっても喪失します。また、土地は時価で評価するため、地価の変動によっても国富が変動します。現在の日本の国富は3,000兆円程度とされています。
国富の世界ランキングを探したところ、日本語のサイトが見当たらなかったのですが、英語版のWikipediaにありました*15。元データは、Credit Suisseが公表しているGlobal Wealth Report and Global Wealth Databook(2018年版)になります。GDPと違って国富のランキングはあまり見る機会がないと思いますので、参考までに、上記ソースデータを一部加工した主要国(上位10か国)の国富と関連データを以下に記載しておきます*16。
No. | 国名 | Total wealth (百万USD) |
割合 | Wealth per adult (USD) |
GDP per adult (USD) |
---|---|---|---|---|---|
1 | アメリカ | 98,154 | 31.0 | 403,974 (5) | 81,425 (7) |
2 | 中国 | 51,874 | 16.4 | 47,810 (61) | 12,147 (77) |
3 | 日本 | 23,884 | 7.5 | 227,235 (21) | 47,980 (24) |
4 | ドイツ | 14,499 | 4.6 | 214,893 (23) | 57,955 (20) |
5 | イギリス | 14,209 | 4.5 | 279,048 (15) | 54,621 (23) |
6 | フランス | 13,883 | 4.4 | 280,580 (14) | 55,668 (22) |
7 | イタリア | 10,569 | 3.3 | 217,787 (22) | 41,418 (29) |
8 | カナダ | 8,319 | 2.6 | 288,263 (11) | 59,564 (18) |
9 | オーストラリア | 7,577 | 2.4 | 411,060 (4) | 77,007 (10) |
10 | スペイン | 7,152 | 2.3 | 191,177 (37) | 37,672 (33) |
*1:日本ではマクロ経済学の基本とされる「三面等価の原則」ですが、Wikipediaを見てみると、日本の経済学者である都留重人博士により考案・命名されたと記されており、英語版のページがありません。英訳を調べると、「Principle of Three Equivalence of National Income」と出てくるものの、検索しても英語の文献はヒットしません。後述の「ISバランス」は「Saving-investment balance」としてWikipediaにも英語版のページが一応あるようですが、「三面等価の原則」は日本のみで通用する学術用語なのでしょうか。残念ながら、私にも詳しいことはわからず、経済学入門書の英語の原著を読んで確かめてみるしかないのでしょう。
*2:売れ残りの場合は在庫に投資したと考えます。
*3:消費(C)は消費財の購入、投資(I)は生産財の購入です。経済財は、消費に役立つ消費財か、生産に役立つ生産財のいずれかであり、消費財でありかつ生産財である財はないと仮定されています。
*4:I(投資)に在庫投資を含まない場合について補足します。このとき、「セイの法則」(供給はすべて需要される)によると、「Y = C + I」すなわち「S = I」(貯蓄がすべて投資される)が常に成り立ちます。一方、ケインズの「有効需要の原理」(需要されただけ供給する)によると、市場が均衡した時にのみ「Y = C + I」が成り立ちます。これを、研究者・評論家の小室直樹先生は、「セイの法則」は恒等式、「有効需要の原理」は方程式、と表現しています(小室直樹著『数学嫌いな人のための数学―数学原論』(東洋経済新報社)p277、同著者『論理の方法―社会科学のためのモデル』(東洋経済新報社)p86、など)。「セイの法則」は、リカードが採用して以来、古典派経済学に全面的に取り入れられましたが、第一次大戦後にはその妥当性が失われ、ケインズの「有効需要の原理」が登場することになります。
*5:私自身は経済学部出身ではないため、実際のところはわかりません。
*6:この金利があるおかげで、銀行はつねに投資をして超過リターンを得なければならず、それゆえ常に経済成長が求められるのが資本主義の本質であると思います。
*7:特定の分野で功績がある方でも、経済学に関してはまったくの素人であり、その言説を鵜呑みにすることが危険であることを示す好例だと思います。
*8:輸入の方が多ければ、日本から外国への支出が多くなり、EX – IM はマイナスとなります。
*9:この他にも、たとえばGDPは投資(I)と強く関連するので、景気が悪くなってGDPが落ち込むとIが減少して貯蓄超過が増える、その結果、財政赤字が同額であれば貿易黒字が膨らむ、つまり景気が悪くなると貿易黒字が増える、というように、ISバランス式から様々なことを読み取ることができます。
*10:日本は金利も安く、デフレで物価も安いにもかかわらず、過去20年以上にわたって、民間消費がほとんど増えていません。株高による「資産効果」もほとんど見られず、マクロ経済学の常識が通用しない状況になっています。このような状況について、経営学者の伊丹敬之先生は、その著書『経済を見る眼』(東洋経済新報社)の中で、「失われた二十年…本当に失われたのはマクロ経済のマネジメントだった。(p94)」と指摘しています。
*11:教科書的には、クラウディング・アウト(政府が財政支出を増加させると、利子率が上昇して民間の資金需要を抑制し,民間投資を減少させる現象) が発生しますが、日本はそもそも民間投資が低調でゼロ金利のため、このような現象は起きていないようです。
*12:私たちは日系企業が海外で工場建設などの投資をするニュースを見ると、「日本企業も海外でがんばっているんだな」などと漠然と思ってしまいますが、これで成長するのは投資された海外の国であって、日本は成長しないのです。なお、海外で稼いだ利益には、基本的には日本の税金はかかりません。
*13:私は雇用制度については明るくないのですが、日本の雇用制度は、ヨーロッパと比べると必ずしも解雇規制が厳しいわけではないと聞いたこともあり、この議論が正しいかどうか判断しかねるのですが、それを置いておいたとしても、この書籍の内容自体は将来の日本経済を考えるうえで示唆に富んでいるので、おススメできます。対処療法的な景気回復ではなく、抜本的な経済成長を目指すための方策が述べられています。
*14:この観点で、リニア新幹線建設のような、一企業が日本国内で(自らリスクを取って)実施する巨大プロジェクトについて、私は全面的に賛成したいと思います。
*15:こういう場面で、英語と日本語との情報量格差を思い知らされます。
*16:per adultは、「成人(20歳以上)一人当たり」を意味しています。また()内の数値は国別順位を示しています。
なぜ全ての資産を公正価値(時価)で評価しないのか
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
- なぜ(日本基準に限らず)BS重視といわれるIFRSにおいても、公正価値会計と取得原価会計が混在するのか、疑問に思っている学習者の方
この記事には以下の内容が書かれています。
- IFRSの目的は企業価値の算定に役立つ情報の提供であり、PLの期間損益は、企業価値評価においてDCF法を用いる際のインプットデータとしての位置づけになります
- 固定資産への投資においては、投下資本(取得原価)を超えた利益を生み出すことが期待されており、損益計算上、総収入が投下資本(取得原価)をどれだけ上回ったかが重要になります
- 企業価値評価においては、個々の投資家による事業価値の算定が重要であり、そのためには公正価値ではなく投下した資本(取得原価)ベースでの利益測定が有用です
- 現在の会計基準では公正価値会計と取得原価会計が混在する混合測定の考え方が採られているため、合計値としての財務諸表は、実はあまり意味を持ちません
のれん償却に関するIFRSと日本基準との相違や、自己創設のれんの詳細については、以下のエントリーをご覧ください。
IFRSの目的は「企業価値算定に役立つ情報提供」
まず、BS重視といわれるIFRS(国際財務報告基準)の目的について簡単に確認します。
IFRSでは、PLベースの期間損益というよりも、企業価値の算定に役立つ情報の提供を財務報告の目的としています*1。ファイナンス理論において、企業価値*2はDCF法を用いて将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を割り引いて算定するため、期間損益は企業価値評価においてDCF法を用いる際のインプットデータ*3としての位置づけになります*4。
IFRSの基本的な考え方を示した概念フレームワークについては、以下のエントリーをご覧ください。IFRSでは、意思決定を行う際に有用な財務情報を提供することを目的としており、個々の投資家の意思決定に相違を生じさせることができるような財務報告が、情報価値があり有用と考えられます。
日本基準における考え方
なぜ全ての資産を公正価値で評価しないのか。それは、固定資産はなぜ時価評価ではなく、減価償却するのか、という論点と関連します。
この点、日本の「固定資産の減損に係る会計基準」の前文にあたる意見書において、以下のように分かりやすく記載されています。
固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書
三 基本的な考え方
1.事業用の固定資産については、通常、市場平均を超える成果を期待して事業に使われているため、市場の平均的な期待で決まる時価が変動しても、企業にとっての投資の価値がそれに応じて変動するわけではなく、また、投資の価値自体も、投資の成果であるキャッシュ・フローが得られるまでは実現したものではない。そのため、事業用の固定資産は取得原価から減価償却等を控除した金額で評価され、損益計算においては、そのような資産評価に基づく実現利益が計上されている。
非常に分かりやすい説明だと思います。固定資産は、市場平均を超える成果を期待して事業に使われている、つまり投下資本(取得原価)を超えた利益を生み出すことを期待しており、損益計算においては、総収入が投下資本(取得原価)をどれだけ上回ったかが大事だということです*5。
この観点からは、固定資産について、時価評価するという考え方は出てきません。損益計算においては、時価評価は不要ということになります*6。
ASBJの概念フレームワークにおける考え方
それでは、固定資産への投資に限らず、全ての投資について考えるとどうでしょうか。これについては、ASBJ(企業会計基準委員会)が2006年に公表した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」の説明が分かりやすいと感じます。ASBJの概念フレームワークでは、投資の性質を金融投資と事業投資に分けて考えています。
第4章 財務諸表における認識と測定
21. 利用価値*7は、市場価格と並んで、資産の価値を表す代表的な指標の1 つである。利用価値は、報告主体の主観的な期待価値であり、測定時点の市場価格と、それを超える無形ののれん価値とを含んでいる。そのため、利用価値は、個々の資産の価値ではなく、貸借対照表には計上されていない無形資産も含んだ企業全体の価値を推定する必要がある場合に利用される。ただし、取得原価を超える利用価値で資産を測定した場合には、自己創設のれんが計上されることになる。
53. …(略)…市場価格や利用価値を、すべてのケースにおいて優先的に適用すべき測定値とは考えていない。原始取得原価や未償却原価を、市場価格などによる測定が困難な場合に限って適用が許容される測定値として消極的に考えるのではなく、それらを積極的に並列させている。財務報告の目的を達成するためには、投資の状況に応じて多様な測定値が求められるからである。資産と負債の測定値をいわゆる原価なり時価なりで統一すること自体が、財務報告の目的に役立つわけではない。
57. …(略)…投資の成果がリスクから解放されるというのは、投資にあたって期待された成果が事実として確定することをいうが、特に事業投資については、事業のリスクに拘束されない独立の資産を獲得したとみなすことができるときに、投資のリスクから解放されると考えられる。もちろん、どのような事象をもって独立の資産を獲得したとみるのかについては、解釈の余地が残されている。個別具体的なケースにおける解釈は、個別基準の新設・改廃に際し、コンセンサスなどに基づき与えられる。これに対して、事業の目的に拘束されず、保有資産の値上りを期待した金融投資に生じる価値の変動は、そのまま期待に見合う事実として、リスクから解放された投資の成果に該当する。
ASBJ概念フレームワーク特有の「投資のリスクからの解放」*8という言い回しが出てきますが、簡単にまとめると以下の通りです。
- 金融投資:それ自体が無形の価値を含まないので時価による直接的な測定が有用
- 事業投資:無形ののれん価値を含むので、利益などのフロー情報が有用
つまり、いつでも時価で換金できる金融投資と異なり、事業投資については、個々の資産・負債を公正価値で評価したとしても、事業全体の価値の算定にはつながらないため、むしろ利益情報が役に立つ、ということです。自己創設のれんのない金融投資には公正価値会計を、自己創設のれんのある事業投資には取得原価会計を適用すべき、とも言えます。
ファイナンス理論の企業価値評価*9と整合する、非常にわかりやすいロジックですが、実務的には金融投資、事業投資の区別が必ずしも明確でないこともあり*10、実際には一筋縄ではいかなそうです。
結論
ASBJ概念フレームワークに示されたような考え方はIFRSでは明示的に示されていませんが、IFRSにおいても混合測定の考え方が取られており、共通のものであると考えられます*11。いずれにしても、事業投資については、個々の投資家による事業価値(特に無形ののれん価値)の算定が重要であり、そのためには公正価値ではなく投下した資本(取得原価)ベースでの利益測定が投資家の意思決定に有用であると考えられます。
(追記)混合測定について
上記で記載した通り、現在の会計基準においては、日本基準・IFRSいずれにおいても、公正価値会計と取得原価会計とが混在する混合測定が採用されています。これについて、2020年4月6日の経営財務のコラム*12において、IASB(国際会計基準審議会)前理事の鶯地隆継氏が以下のように明確に述べられていましたので、ご参考までに紹介します。
混合測定では、測定基礎の異なる資産負債が混在する。あるものはメートル法で測定し、あるものはマイル法で測定し、あるものは尺貫法で測定しているようなもので、それらの数字だけを足し合わせた合計値は全く意味がない。したがって、合計値としての財務諸表は、実は、あまり意味を持たないのである。
…(中略)…合算した数値に意味がないとすれば、その財務諸表の中にある特定の一行、たとえば当期純利益をもって、それがその企業の業績の全てであるかのような思い込みは危険である。…(中略)…このような不整合を内包しながらも、財務諸表は段階損益や注記なども含めた総体としての有用性を保とうとしている。重要なのは、作成者、利用者などのステークホルダーが、それを十分理解して、財務諸表と向き合う事である。
*1:財務報告が、直接、企業価値を示すことを目的にしているわけではない点に注意が必要です。
*2:企業価値=事業価値+投融資(非事業資産)であり、ここでは厳密には事業価値を指します。
*3:ファイナンス理論に基づく企業価値評価は将来のキャッシュ・フローを予測するため、PLの実績数値ではなく、予想PLの数値を使うことになる点に留意が必要です。
*4:なお、ここで述べた通り、ファイナンスの世界では、会計上の利益ではなく、(会計上の利益を加工した)FCFを利用して企業価値を評価します。財務報告の主目的が投資家による企業価値評価なのであれば、最初から純利益ではなくFCFを重視するような財務会計を指向すれば良いのではないか、という意見も有り得ます。この点について、元ASBJ委員長の西川氏は、著書の中で以下のように述べています。「実際には投資家はFCFより、PLの純利益(またはそれを加工した利益情報)を指標にして将来予測を行う人が多いと言われている」「現金主義より発生主義の結果の方が有用な業績指標となるという発生主義会計誕生以降の評価は変えようがないですね。例えば、トップラインを見ても、売上高であるべきか、売上収入(現金入金額)であるべきかといったとき、情報の早さ(入金前に情報が出る)と確かさ(財またはサービスを提供済みである)が備わった売上高に軍配が上がるでしょう。仮にその売上高に関して貸倒れが生じても、何もなかったかのように売上収入が上がらないより、売上げて貸倒れたという情報が含まれた方が、情報として豊富なものといえますね。」(西川郁生著『会計基準の考え方』(税務経理協会))
*5:固定資産の取得価額は、取得時点での公正価値と一致します。一方、企業は取得価額を上回る成果を期待しており、これは使用価値と呼ばれるものです。つまり、「使用価値>公正価値」と考える場合に、企業は固定資産に投資を行うといえます。この使用価値と公正価値の差額こそが自己創設のれんとなります。どの会計基準においても、自己創設のれんの計上は原則として禁止されていますが、減損損失の計算においては使用価値の概念が出てきます。
*6:なお、上記の意見書において、減損会計も時価評価会計とは異なり、あくまで「取得原価基準の下で行われる帳簿価額の臨時的な減額」とされています。
*7:一般には「使用価値」とされることが多いですが、同じ意味として定義されています(財務会計の概念フレームワーク20項)。
*8:ASBJは、2013年12月のASAF(会計基準アドバイザリー・フォーラム)会議において、純利益の性質として「リスクからの解放」ではなく「不可逆な成果」を挙げているそうですが、この点について、当時のASBJ委員長である西川郁生氏は、上の脚注でも参照した著書の中で「リスクからの解放は個⼈的には⼤変好きな説明ですが、費⽤サイド、例えば減価償却がなぜリスクからの解放かという質問(攻撃)が国際的な議論の場で繰り返されたので、違う説明を探していました。」と述べています。(西川郁生著『会計基準の考え方』(税務経理協会))
*9:ファイナンス理論の企業価値評価においては、「企業価値=事業価値(本業の資産を活用して生み出された将来FCF(Free Cash Flow)の現在価値)+投融資(金融資産・不動産等の非事業資産)」として算出します。このとき、事業価値は個々の資産の時価(公正価値)の積み上げではなく、将来FCFの現在価値として算定されることになります。なお、ある程度会計に詳しいものの、企業価値評価などのファイナンス理論に自信のない方は、田中慎一・保田隆明著『コーポレートファイナンス 戦略と実践』(ダイヤモンド社)をおススメします。適度に専門的かつ実践的な内容でありながら、コーポレートファイナンス領域全体が非常に分かりやすくまとまっています。
*10:たとえば金融資産であっても子会社株式は事業投資となり、逆に非金融資産の投資不動産は金融投資にあたると考えられるなど、単純に金融資産=金融投資となりません。このあたり、企業価値評価の実務においてはある程度割り切っているのだと思いますが、客観的な規範性が求められる会計基準にまで落とし込むのはなかなか難しそうです。
*11:秋葉賢一著『会計基準の読み方Q&A100(第2版)』(中央経済社)p56より。
会計人材の転職について
私もちょうど数年前のこの時期に、転職活動を本格的に始めました。なぜ転職をしたのかについては、また別の機会に書ければと思いますが、転職することで、生産性が高くて働きやすい組織に人が集まり、社会の新陳代謝が活性化すれば、この国はもっと豊かになると思います。
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
- 経理職への転職を考えている方
この記事には以下の内容が書かれています。
転職の思考法
北野唯我著『転職の思考法』(ダイヤモンド社)という本をご存知でしょうか。この本はベストセラーになり、いろんな方が紹介しているので、詳しい紹介は省略しますが、物語形式のストーリーを一読して、最後にまとまっている「ノートまとめ」を繰り返し読めば、転職についての基本的な考え方が身に付くので、おススメです。最近の本であるため、私自身は転職をした後にこの本を読んだのですが、非常に納得感がありました。(実際、この本を妻にも薦めました)
私が特に記憶に残った著者の指摘は、以下の3点です。
20代は専門性、30代は経験、40代は人的資産(人脈)でキャリアを作れ
マーケットバリューは業界の生産性に最も大きな影響を受ける
多くの人にとって、心からやりたいことなど必要ない
- 人間には、「何をするか」に重きをおくto do型の人間と、「どんな人でありたいか、どんな状態でありたいか」を重視するbeing型の人間がいる。99%の人間はbeing型である。だから、「心からやりたいこと」がなくても悲観する必要はまったくない。
会計人材の転職
特に会計関係の仕事についている人であれば、すでに一定の専門性がある時点で、他の一般の転職者と比べて優位に転職活動を進めることができると思います。転職先も様々な業種、規模の事業会社(場合によっては会計事務所も)から自由に選択できるため、自分の興味のある業界を選ぶこともできます。
経理職はいずれAI(人工知能)に代替されるという話をよく耳にしますが、現実には当面の間ありませんので(以下のエントリーでも書きましたのでご覧ください)、当面の間は経理業務ができる人材は引く手あまたです。実際、私の会社でも、スタッフ職、マネージャー職、いずれも採用に苦労しています。
いまの仕事がもしイヤになっているのであれば、自分に言い訳せずに、転職活動という第一歩を踏み出してみることを強くおススメします。実際に転職するしないにかかわらず、きっと新しい世界が見えてくるはずです。 (私の妻は結局転職しなかったのですが、転職活動を通じて様々なエージェントと話をして自分のキャリアを考えたことは良い経験になったようです)
会計人材の転職活動における注意点
会計人材はスキルに応じて、会社規模にもよりますが、スタッフ、マネージャーからCFOに至るまで、様々な職位への転職に挑戦することができます。会計の専門性は、経理、財務、税務それぞれの領域である程度明確にスキルが定義されているので、自分の足りないスキルが明確です。すでに経理職として働いているのであれば、転職を繰り返して、常に自分に合ったステージに身を置き、新たな専門性(スキル)を身につけ経験を積むことで、キャリアをステップアップしてくことも可能で、実際に推奨されてもいます。
これは、どの業界でもかならず必要となる専門性を持つ、会計人材ならではの強みであり、特に経理職で働く人はこういった考え方をどんどん取り入れていくべきだと思います。一方で、「会計人材はどうせすぐにキャリアアップを目指して転職する」と世間から思われているのも事実です。
事業会社への転職を目指すのであれば、自分のキャリアアップやスキルセットのことばかりではなく、「なぜその会社で働きたいのか?」「その会社のミッションに本当に共感しているのか?」といった根本的な問いについてよくよく考えてから、採用面接に臨むことをおススメします。