結局、過去20年間で日本は経済成長したのか

3つのGDP

平成の時代は、失われた20年とか30年とか呼ばれることがありますが、これは平成の時代に日本がほとんど経済成長をせず、世界経済におけるプレゼンスを大きく低下させてきたためである思われます。経済成長をしないということは、つまりGDPが伸びなかったということですが、このGDPにも3つの種類があります。

バブル崩壊の影響が本格化した1992年(平成4年)を起点として、それから20年後のアベノミクスが始まった2012年(平成24年)、そして直近の2018年(平成30年)の3時点を比較する形で、GDP数値を確認したいと思います。なお、ソースは以下のサイトとなります。

ecodb.net

(円建) 1992年 2012年 2018年 1992~2012年の伸び率 2012~2018年の伸び率
名目GDP 495.0兆円 494.9兆円 549.0兆円 ▲0.0% +10.9%
実質GDP 423.4兆円 498.8兆円 534.4兆円 +17.8% +7.1%
(ドル建) 1992年 2012年 2018年 1992~2012年の伸び率 2012~2018年の伸び率
名目GDP 3.90兆ドル 6.20兆ドル 4.97兆ドル +58.7% ▲19.9%
購買力平価GDP 2.70兆ドル 4.73兆ドル 5.59兆ドル +75.0% +18.3%

年率換算すると、伸び率は以下の通りです。

(円建) 1992~2012年 2012~2018年 1992~2018年
名目GDP ▲0.0% +1.7% +0.4%
実質GDP +0.8% +1.2% +0.9%
(ドル建) 1992~2012年 2012~2018年 1992~2018年
名目GDP +2.3% ▲3.6% +0.9%
購買力平価GDP +2.8% +2.8% +2.8%

なお、下記のエントリーでグラフでも示していますので、是非こちらもご覧ください。

keiri.hatenablog.jp

GDPを時系列で比較して見えてくること

上表を見ると、1992年~2012年の20年間で、残念なことに日本の名目GDP(円建)はまったく増加していなかった、ということがわかります。これが「失われた20年」と呼ばれる理由になっていると思われます。そしてアベノミクスが始まって以降は、名目GDPの年率の成長率がゼロから+1.7%に増加しています。まだ先進国平均である2~3%には及びませんが、ようやく最悪の状況を脱しつつあると評価することができます。

一方で、失われた20年など存在しない、日本経済は平成の時代も成長し続けてきた、と主張する人もいます。それは実質GDP購買力平価GDPを見て評価しているからでしょう。特に購買力平価GDP(ドル建)は、アベノミクスにかかわらず、1992年以降は一貫して+2.8%の高成長を続けています。これでも先進国平均には及ばないのですが、それなりに健闘していたといえるでしょう。たしかに生活実感として、20年以上前と比べると、パソコンなど非常に高価だったものが安価で入手できるようになる、スマートフォンを持つのが一般的になるなど、生活は確実に便利になってきており、そういう意味では平成の時代がまったく成長していないという指摘は当たらないとも言えます。

ちなみに名目GDPをドル建てでみると、アベノミクス以前はプラス成長、それ以降はマイナス成長となっていますが、これは為替レートが円高から円安に大きく振れたことが要因です。一国の経済の大きさをそのまま示す名目GDPの成長率を見るにあたっては、自国建ての通貨で見るのが正当であり、この数値をもってアベノミクス批判をするのは筋が悪いように思います。様々な意見があると思いますが、アベノミクスで名目GDPが増加して、約500兆円の水準から約550兆円の水準に上昇したことは評価すべきだと思います。

蛇足ですが、もうすぐ参議院選挙が行われます。一般感覚として野党の戦況はよろしくないですが、安倍政権をこき下ろして完全否定するだけでは、あまり支持は拡大しないように思います*1。安倍政権の一定の成果を認めたうえで、それでも「我々が政権を取れば、さらに経済成長率を先進国平均並みに引き上げて、国民生活を豊かにすることができる」という主張を組み立てた方が、支持を得られるのではないかと感じます。

日本経済復活のために

購買力平価GDPで見れば、日本経済は成長しているとも言えるのですが、しかし名目GDPがほとんど伸びてこなかった以上、世界経済における日本のプレゼンスが大きく低下してしまったことは事実です。このままでは、日本は外国と比べて生活は比較的しやすいけど、物価が安くて貧乏な国になってしまうとも言えます。

日本経済が低迷した原因として、下記のエントリーでは、日本企業が日本国内に投資してこなかったことを要因として挙げました。

keiri.hatenablog.jp

これはヒト・モノ・カネで言うと、モノ・カネの話ですが、ヒトの観点からすると、日本では人材の流動性が低いということがよく問題点として挙げられます。日本の大企業では、40代、50代になるにつれて給料が上がるため、会社を辞めなくなる、といった話です。昔であれば、経験を積んだ50代の人たちの生産性が高かったのでしょうが、変化が激しく技術がすぐに陳腐化する今の時代において、過去の経験があまり活かせなくなるにつれて、給料は高いのに生産性が低い人たちが量産され、そういう人たちが会社にしがみついているため、生産性が上がらないのだ、というわけです。

たしかにそれはその通りで、人材の流動化を促進することは大きな課題の一つですが、一方で、大企業の生産性はそもそも比較的高く、日本の大部分を占める中小企業の生産性が低いことが、日本の低成長につながっているとの指摘もあります。これは人材を流動化するだけでは解決しない問題であり、いかに中小企業の生産性を上げるのかが、もう一つの大きな課題であるように思われます。方法としては、政府の補助金を廃止する、最低賃金を引き上げて生産性の低い企業を淘汰する、といった過激な方法もありますが*2、いずれにしても日本経済復活のためには避けては通れない課題だと思います。

*1:たしかに、最近で言えば、年金問題を巡っての麻生大臣の対応は最低でしたし、批判すべき点は多いのですが…。ただ、年金問題について言えば、そもそも一定の仮定の置いた上での2,000万円という数値自体にそんなに意味はなく、議論のための良いキッカケにもなるはずのところ、案の定まったく見当違いな方向に話が進み、結局、野党にとってもプラスにならなかったように思います。

*2:最低賃金引き上げはどの党も主張していますが、もっとも強硬に主張しているのが共産党(時給1,500円への引き上げを主張)なのが面白いところです。