結局、過去20年間で日本は経済成長したのか、今後はどうなるのかをグラフで眺める


この記事は主に以下の方に向けて書かれています。

  • 世界経済における日本の立ち位置、諸外国と比べた時の日本の経済規模の推移、将来予測をざっくり把握したい方

この記事には以下の内容が書かれています。

  • IMF予測に基づく1人当たり名目GDPの観点で主要国経済を眺めると、

    • 現在の日本の水準はイギリス、フランスを少し下回るが、2024年頃には両国を大きく上回り、カナダ、ドイツに迫る水準になる
    • アメリカは安定的に成長を続けており、独走状態に入っている
    • 2020年を超えるあたりで、韓国の水準がイタリアを上回り、韓国がG7下位グループと同等の水準になる
    • 2024年には中国もG20の下位グループから抜け出し、G7、オーストラリア、サウジアラビア、韓国に次ぐ水準となる
  • 1人当たり実質GDPの1992年以降の成長率の観点で主要国経済を眺めると、

    • 圧倒的に成長率が高いのは中国、次いでインド、その下に韓国、インドネシア、トルコの順であり、この5か国が指数関数的に成長し、それ以外の国には大きな差はない
    • 日本の成長率はサウジアラビア、イタリアに次いで、G20の中で下から3番目の成長率である

G20における1人当たり名目GDP推移

失われた20年と言われる期間、日本のGDPは諸外国と比べてどうなっていたのか。今後はどうなるのか。過去のエントリーでも少し考えてみましたが、今回は主要先進国(G7)の1人当たり名目GDPに関して、IMF国際通貨基金)が公表しているWorld Economic Outlookのデータを用いて、予測数値も含め、1980年~2024年の45年間の推移をグラフにしました。

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失われた20年を1995年~2015年として強調してみると、以下の通りです。 f:id:cpahermits:20190929001322j:plain

これを見ると、日本の1人当たり名目GDPは1990年~1995年に大きく伸長していますが、これは為替の影響によるところが大きく、不自然な伸びであったといえるのではないでしょうか。米ドル表示の都合上、為替の影響を受けないアメリカが安定的に成長し、独走状態に入っています。2000年以降、日本はG7の中で埋没しつつも、IMF予測によると、2024年時点では英仏を大きく引き離して、独加とほぼ同水準にまで成長することが見込まれています。ドイツ以外のヨーロッパ諸国の成長率は著しく鈍化することが見込まれているということでしょうか。この予測によると、G7の中で日本が著しく劣るということはなさそうです。

次に、対象をG20に広げて、同じようにグラフを作成してみます。

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G7に割り込む形でオーストラリアが大きく成長しています。一方、韓国も大きく成長してきており、G7の一角であるイタリアを数年内に追い越すことが予測されています。イタリアを追い越すと、韓国の経済水準が主要先進国(G7)に並んだと言えるかもしれませんが、昨今の韓国経済の状況を見ると、そう簡単にイタリアを追い越すことはできないかもしれません。ただ、いずれにしても、昨今の日韓対立に関して、韓国経済を過小評価している言説をいまだに見ますが、現実を直視することが必要であるように思います。こちらのエントリーでも書きましたが、1人当たり購買力平価GDPであれば、2023年に韓国が日本を追い越す予測となっており、日本も安穏としてはいられない状況であることが分かります。

さて、その他の国々を見ると、インド、インドネシアなどは、まだまだ低い水準にとどまっています。多くの人口を抱えるこれらの国が、中国並みに発展を加速するようになれば、世界経済へのインパクトは相当大きくなると思いますが、グラフを見る限り、それはまだ当面先になるようです。

その中国は、2024年には、ロシアやアルゼンチンも追い越し、G20の密集グループの中ではトップとなる見込みです。すなわち、G20の中では、1人当たり名目GDPで見たとしても、G7、オーストラリア、韓国、サウジアラビアに続く水準になるということです。中国の圧倒的な人口の多さを考えると、これはとてつもないインパクトがあることだと思います。

なお、参考として、2024年時点の、名目GDP予測ランキング(上位30か国)を載せておきます。

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以上、名目GDPをベースしたグラフを紹介しましたが、購買力平価GDPに関しては、以下の2つのエントリーで多数のグラフを紹介していますので、興味のある方はご覧ください。

keiri.hatenablog.jp

keiri.hatenablog.jp

G20における1人当たり実質GDP(自国通貨建)の伸び率の推移

続いて、1人当たり実質GDP(自国通貨建)を用いて、為替影響を除外して、過去25年で各国経済がどの程度成長したのかをグラフで示したいと思います。単位を揃えるため、1992年を100としたときのグラフを作成します*1。なお、ここでは実質GDPを用いていますが、これは名目GDPを用いるとインフレ率の高い一部の国の数値が異常値となるためです。よって、物価変動を考慮した実質GDPを利用します。

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上のグラフを見ると、中国が圧倒的に成長し、続いてインド、韓国、インドネシア、トルコが大きく伸びています。それ以外の国々は団子になっていますが、次に縦軸の上限を200として、再度グラフを作成します。

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これを見ると、G20の中で日本よりも成長率が低い国は、イタリア、サウジアラビアの2か国だけだということが分かります。確かに日本の成長率の低さが際立っています。もっとも、日本も厳しい状況ながら、イタリアは大丈夫なのか、かなり心配になりますが*2。。他のG7の国々を見ると、米英の成長率が高く、それに加独が続き、フランスは日本より少し上といったところです。

日本も少なくともG7平均並みの成長を維持できるよう、適切な設備投資による生産性向上に取り組んでいく必要がありそうです。ただし、最近よく見かける、日本経済が先進国から転落した、すでに後進国になった、と言ったような極端な言説はさすがにミスリードであり、以上で示した複数のグラフを見る限り、あまり真に受ける必要はなさそうです。

*1:1992年を基準としているのは、1991年以前のデータが欠落している国があること、また日本においてもバブル崩壊の真っ只中で大きな転機となった年であることが理由です。

*2:イタリアは南北格差が激しく、南イタリアの生産性は北イタリアに比べてはるかに低く、経済的にも停滞しています。一方、北イタリアの生産性の高さはドイツより高いとも言われ、イタリア全体で見ると、南イタリアが足を引っ張っている状況です。これは、北部と南部とでは歴史が大きく異なることに起因し、1861年に北イタリアのサヴォイア王家により南北統一がなされて以降も、ずっと続いている問題です。イタリア政府は南部の経済振興に多額の資金を投じていますが、これがマフィアやそれとつながる利権集団に流れ、全く成果が上がっていないことは良く知られています。このあたりの事情については、日本在住のイタリア人著者による「イタリア人と日本人、どっちがバカ?」という新書本がわかりやすくておススメです。