英会話教材 『Jump-Start!』
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
- TOEICの点数は高いが、英会話が苦手な方
- 『Jump-Start!』 に興味があり、口コミを確認したい方
この記事には以下の内容が書かれています。
- 『Jump-Start!』 の概要、レベルや、使用例を紹介しています
- 『Jump-Start!』に続く教材として、『ALL IN ONE TOEIC テスト 音速チャージ!』を使用してTOEIC900点台を取りましたので、使用例を簡単に紹介しています
『Jump-Start!』 との出会い
最近はじめた英会話教材、『Jump-Start!』をご紹介します。日経新聞の広告にもたまに出ているので、ご存知の方も多いかもしれません。
なぜこの教材を選んだかというと、この教材の音声教材(mp3ファイル)が無料(!)でダウンロードできると知ったためです。下記のサイトからさっそくダウンロードしたところ、無料とは思えないほど内容が良さそうだったので、結局書籍も購入しました。書籍を購入しても1000円と非常に安いです。
教材の紹介に入る前に、私の英語のレベルを書いておくと、私自身は、海外で暮らした経験や海外留学経験といった海外経験は全くありません。受験勉強でしか英語を使ってこなかった、典型的なドメスティック日本人です。海外出張も、前職時代に2度ほど行った程度ですが、海外出張に行く機会があった頃は、高いお金を払って英会話教室に通うとともに、TOEIC対策をして受験し、900点を超えるスコアを出したこともあります*1。それでも、「英語が喋れる」「英語ができる」という感触は結局得られず、ここ数年は英語から完全に遠ざかっていました。
ところが転職後、社内に外国人が増えたこともあって、英語の必要性を再度感じたため、今年の初めからオンライン英会話を開始しました。久しぶりの英会話で、相手の言っていることもあまり聞き取れず、かなりのストレスを感じていましたが、最近は少しずつ聞き取れるようになってきました*2。そこで、英語での発信力をもう少し鍛える必要があるな、とモチベーションが湧いていたタイミングで、この『Jump-Start!』に出会いました。
教材の概要
有名な英語教材として、瞬間英作文というトレーニングがあります。これは、日本語の文章を、即座に英語に訳すトレーニングを繰り返すことで、英語が喋れるようになる、というトレーニング法です。合理的ですし、やり込めば実際に喋れるようにもなると思うのですが、日本語→英語に瞬時に訳すのはかなり疲れる作業であり、私も以前少しだけやってみましたが、途中で諦めてしまいました。
この『Jump-Start!』も似たような発想の教材なのですが、著者は瞬間英作文とは似て非なるものとして、「瞬時英訳」と呼んでいます。具体的には、一つの文章全体ではなく、まずは文章の一部(単語もしくは節単位)で、日本語→英語に変換するトレーニングを行います。とても短い単位なので、これであればストレスはほとんどありません。
以下に、教材の紹介文を一部引用します。
「瞬間英作文」は、「日本文全体」を「英文全体」に置き換えます。ですから、頭の中で「高度な翻訳作業」を行う必要があり、大半の学習者はそれができないので(つまり、中学レベルの簡単な英文でも、高校レベル以上の文法力と語い力が必要になる)、「英作文」ではなく単なる「全文の丸暗記」になります。「全文の丸暗記」では、個々の単語も、そこに含まれる文法も、それらを合わせた英作文の力も、ほとんど身につきません。
これに対して、『Jump-Start!』は、英語の語順に従って、日本語を前から順番に小さく英語に置き換えていきます。前から順番に細かく英語に置き換えていく過程で、個々の英単語の意味、英語の語順、語と語の修飾関係が身につきます。そして、これは中学レベルの文法力しかなくても行えます。
例えば、「聞き流し」の教材は、以下のように音声が流れます。
例1(3日目より)
「彼女は・いない」 ⇒ " She is not "
「彼女の机のところに」 ⇒ " at her desk "
「彼女は席を外しています。」 ⇒ " She is not at her desk. "
例2(5日目より)
「でしょうか?・私は」 ⇒ " Do I "
「知っている・あなたを」 ⇒ " know you "
「以前お会いしていますか?」 ⇒ " Do I know you? "
このように、小さな単位で置き換えてから、全文を日本語→英語に置き換えるので、ストレスが小さくて続けやすいのです。もちろん慣れてきたら、日本語と英語の全文のみで構成された「瞬時英訳」用の音源など、複数の音声教材が提供されています*3。
また、この例で出した「彼女は席を外しています。」「以前お会いしていますか?」などの文章は、英語を見れば非常に簡単ですが、日本語から見ると、慣れていないと意外と即座に英語が出てこない文章です。このように、易しい英語を用いていろんな表現ができることを思い出させてくれる、そんな例文が揃っていると思います。
教材の内容(学習項目)
この本の副題は「英語は39日でうまくなる!」となっていますが、これは学習項目が39個あることを意味しています。1日1項目ずつ進めていくことが前提となっており、39項目の内容は、以下の通りです。中学英語のレベルとのことですが、基本的な英会話に必要な文法項目はほとんど網羅されているように思います(裏を返せば、英会話ができないのは、中学レベルの英語すら満足に使えていないということ)。
なお、これは私の感想ですが、7日目と9日目は特に難しいと感じました。最初の方の単元は簡単だ、と甘く見ていると痛い目を見るかもしれません。
- 命令文
- be動詞の肯定文
- be動詞の否定文
- be動詞の疑問文
- 一般動詞の文
- 三単現の文
- 否定疑問と付加疑問
- 現在形と現在進行形
- be動詞の過去形
- 一般動詞の過去形
- 現在完了形
- 現在完了進行形
- willとcan
- may、must、should
- 助動詞的な動詞句
- There / Here is...
- SVCの文
- SVO+前置詞句
- SVO'OとSVOC
- SVO (to)不定詞
- 受動態
- 副詞の疑問詞
- wh- の疑問文
- Wh- の疑問文 / 感嘆文
- How の疑問文 / 感嘆文
- 間接疑問文
- to 不定詞の名詞用法
- It...to 不定詞、疑問詞 to 不定詞
- to 不定詞の副詞 / 形容詞用法
- 動名詞
- 現在分詞
- 過去分詞
- that 節(名詞節)
- 関係代名詞
- 関係副詞
- 接続詞と副詞節
- 副詞節
- 比較級
- 最上級と原級比較
私自身の使い方
1日に1項目ずつ進めれば、39日で終わる、というコンセプトですが、一定の英語力があれば、39日かけてコツコツやる必要もないと思います。私は、「聞き流し」の音声教材を10日分ずつ(最後だけは9日分)4つのフォルダに分けて、1日に1つのフォルダを聞き流すことにしています*4。「聞き流し」は全部通すと106分になりますが、4つに分けると大体25~27分程度で終わりますので、朝の通勤時間を使うと十分聞き終えることができます。まだ始めたばかりですが、毎日続けることで、英語でのアウトプットが徐々にスムーズに行えるようになる感覚をすでに実感しています。
この教材は、BGMとして流して聞くだけではほとんど意味がありませんので、あくまで頭を集中させて、日本語→英語の言い換えを頭の中で能動的に行うことが必要です。そのためにも、集中力が持続する時間で行う必要がありますが、オンライン英会話のレッスン一コマも25分ですし、これくらいが英語に集中できるちょうどよい長さではないかと思っています。
「聞き流し」で英文がある程度耳になじんできたら、今度は机上で書籍を見ながら、制限時間内に英訳できるかどうかテストを行います*5。そうすると、苦手な英文がどれなのかが明確になりますので、うまく英訳できなかった苦手な英文のみをピックアップして「聞き流し」を繰り返し実践すると、効率的かつ効果的にレベルアップできると思います。私自身、自宅で少し(10分程度でも)時間があるときには、「聞き流し」済の例文について、書籍で瞬間英作文的な英訳の練習をしたり*6、例文の解説を読んだりして、定着を図るとともに、苦手な英文のみを集中して「聞き流し」するようにしています。
(追記)ある程度慣れてきた方へ
(この節は記事公開から約1年後に追記しています。)
『Jump-Start!』の例文は全部で395例文あります。上記の聞き流し+テストを行えば、短い人であれば1ヶ月程度でマスターできると思います。ゆっくりやっても数か月もあれば十分だと思います。
この例文をマスターすると、39日分の例文を、30分程度でテストできるようになるので、わずか30分で自分の脳を英語モードにすることができます。30分で中学英文法の全てを網羅的にしゃべる練習ができるというのはとても効果的です。
実は私は最近は英語学習熱が少し冷めてきて、『Jump-Start!』から離れていたのですが、久々にTOEICを受けようと思い立ち、勉強を再開しました。『Jump-Start!』の例文を一度はマスターしているので、再度テストを行ってすぐに口から出てくるように練習しています。そうすると、一気に英語モードに戻ることができます。オンライン英会話レッスンの直前などに行うと効果的だと思います。
また、『Jump-Start!』には「チョイ足し英語講座」として、本に書かれていない「+α」の情報を各単元ごとに5分程度の動画にまとめた教材がyoutubeにアップロードされています。非常に有用ですので、例文をマスターした方は是非こちらをご覧になることをおススメします。
なお、この追記を書いている2020年5月現在、残念ながらTOEICの試験は行われていないのですが、そう遠くないうちに再開されると思いますので、『Jump-Start!』の姉妹編にあたる『ALL IN ONE TOEIC テスト 音速チャージ!』を購入しました。これを耳から聞いてマスターして、あとはTOEICの過去問題集を少し解いてみてから、本番にトライしてみようと考えています。
(さらに追記)『音速チャージ』を使ってTOEICを受験しました
2020年11月、5年ぶりにTOEICを受験してみました。上の追記でも書きましたが、TOEIC対策として、『Jump-Start!』の次に『ALL IN ONE TOEIC テスト 音速チャージ!』(以下、音速チャージ)を用いてしばらく学習してみました。その結果、過去最高となる900点を超える得点を取ることが出来ました。そこで、『Jump-Start!』からTOEIC受験にステップアップする人の参考に、簡単に『音速チャージ』の活用方法を記載したいと思います。
ちなみに、学習開始時の私の英語のレベルや学習状況を簡単に紹介すると、以下の通りです。
海外留学や海外在住の経験は全くありません。
英語は学生時代から苦手でしたが、受験勉強のおかげで、文法だけは比較的得意です。
『Jump-Start!』に出てくる例文は、ほぼマスターしていました。
『音速チャージ』に載っている単語は、8割程度は元々知っていました。
仕事で英会話を使うことはほとんどありません。英語の読み書きはたまに必要となりますが、ほとんど機械翻訳を微修正して(つまり横着して)対応しています。
オンライン英会話を週に1~2回程度、細々と続けています。
TOEICの勉強には2ヶ月くらい費やしました。とは言え、主にやったことと言えば、片道30~40分程度の通勤時間を使って、『音速チャージ』の音声教材を聞きながら、教材を読んで内容を確認しただけです。その他、自宅で時間があるときには、TOEIC公式問題集を眺めて問題形式を確認し、気の向くままに問題を解いたりしていました*7。
音声教材には、「読み下し音声」「英語例文音声」の2つがあります。本当は、「読み下し音声」の日本語を聞いて、すぐに英語が思い浮かぶくらいまでやり込みたかったのですが、そのレベルを目指すには時間が足りないことに気付き、とりあえず「英語例文音声」を聞いて内容を理解できる、というレベルを目標としました。
実際の試験日までに、一応英文を聞いて意味は理解できる程度までは仕上げた、という感じで、やり込んだと言えるレベルには全く達しませんでしたが、それでも900点突破は十分可能でした。やはり、『音速チャージ』には、TOEICでよく出てくる(倒置や分詞構文など)少し癖のある構文の文章が例文中に練り込まれており、これを何度も繰り返し聞いているだけで、TOEICの英文が読みやすくなったのではないかと思います。
正直なところ、『音速チャージ』の例文は、『Jump-Start!』と比べると非常に難しく、取っ付きにくいです。『Jump-Start!』と同じ感覚で、例文の暗記をしようとすると、とてもハードルが高そうですが、繰り返し英語音声を聞いて、日本語の意味を理解できるようになるレベルを目標とすれば、そんなに難しくはありません。
私は、今回のTOEIC受験では、公式問題集を除けば、『音速チャージ』しか使いませんでした。『音速チャージ』の「はじめに」の最後に、『「この本でTOEICの準備勉強をしよう!」と決めたら、これだけに集中して最後までやり抜いてください』と書いてあり、これを実践しました。実際には、最後までやり抜けてもいないのですが、それでも想定レベルの「730点~860点」を十分に上回る点数を取れましたので、感謝しています。今後も、英語レベルのチェックのためにTOEICを受けることがあると思いますが、その際も『音速チャージ』で勉強(復習)したいと思います。
ちなみに、TOEIC受験を終えた今、当面は仕事で英語を使う予定もないため、英語の勉強としては、新たな知識をインプットするというより、簡単な英語をアウトプットする練習をしようと考えています。具体的には、以下の3冊セットの物語形式の参考書を使って勉強しているのですが、とても楽しいのでおススメです。
*1:一度900点超を取ってからは受けていません。いま受験したら、きっと700点も取れないでしょう。
*2:最初は相手がフィリピン人だから聞き取れないのだろう、などと思っていましたが(失礼!)、単純に私のリスニング能力が低すぎたことが原因だと気付きました。
*3:これらの音声だけであれば、無料で誰でもダウンロードできます。そのため、本当にお金をかけずに学習できるのですが、書籍を買うと全ての文章の詳細な解説がついていて勉強になるので、是非書籍も購入するべきでしょう。英文を耳から覚えた上で、これらの解説を読むと、さらに英語で表現できる幅が広がると思います。
*4:最初のうちはフォルダ内を順番に再生し、慣れてきたらランダム再生にしています。順番に再生すると、途中で中断した時に後半の項目がおろそかになってしまう可能性がありますが、ランダム再生にするとそのような懸念もなく、時間がない時でも気楽に聞き流すことができます。
*5:具体的には、スマートフォンのストップウォッチを使って、所定の制限時間内に英訳できるかどうかを確認します。十分に「聞き流し」を行って英文が身に付いていれば、少し慣れるだけでクリアできるようになると思います。
*6:一旦制限時間をクリアした後は、タイムトライアルとして度々ゲーム感覚で実施すると、結構楽しめるとともに、英文が長期記憶としてよく身に付くと思います。
*7:私の場合、自宅で2時間集中して公式問題集を解く、というのは集中力が続かずにとても無理ですので、「(極力急いで)小問を解いてみて、その都度解説を読んで確認する」といった方法を取りました。
経理マンによる機械学習入門
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
この記事には以下の内容が書かれています。
機械学習とは
先日のエントリーの中で機械学習という言葉が出てきました。今後AIツールから出力される結果を業務に活用するためには、最低限のAIリテラシーが必要であり、そこには機械学習の素養も含まれると思われます。
機械学習とは、一言でいえば、データの集合からその法則性を計算処理によって学習し、そして未知のデータに対して予測を行うことです。法則性を導くというと回帰分析が有名ですが、もっと複雑な関係性をもったものでも、機械学習でモデルを構築して、予測に活かすことができます*1。
機械学習では特徴量(予測モデルに入力するデータ)として何を選ぶか(データのどこに着目するか)が、精度を上げるために重要です。画像データなど高次元のデータを分析する場合、生データそのものを対象に分析しても精度が上がらず、何らかの手法で特徴抽出して次元削減するなど、特徴量を設計する事前作業が不可欠になるのです。かつては人間自らが職人芸的に特徴量の設計を行っていましたが、この特徴抽出作業を自動化する技術として深層学習(Deep learning)が登場して(2012年)、一気に人工知能がブームとなりました。このあたりの流れについては、2015年発行と少し古いですが、有名な入門書である 松尾豊著『人工知能は人間を超えるか』(角川EPUB選書)が参考になります*2。
機械学習について学ぶには
さて、教養として通り一遍の知識を身につけるということであれば、上記の本など入門書を数冊読めば十分ですが、今の時代、誰でも簡単に機械学習を始める環境が整っていますので、是非、そこまで足を踏み入れてみると面白いと思います。最先端の機械学習の理論を学んで、それをゼロから組み立てて実装(プログラミング)することは、AI研究者ではない一般人には難しいですが、オープンソースとして再利用できるプログラムをまとめた、機械学習用の便利な「ライブラリ」が存在しますので、これを使えば簡単に機械学習を試してみることができます。
私も、最近の人工知能ブームで興味を持ったので、少し学習を進めてみました。門外漢の経理マンとして、入門書の次に何を行ったか、簡単に書いてみます。
まず、機械学習ではPythonというプログラミング言語が一般的に使われていますので、本格的に機械学習を始めるにはPythonを学ぶことから始める必要があります。Pythonは他のプログラミング言語と比べても非常に初心者向きの言語だと思いますので*3、プログラミングの最初の一歩としては良いと思います。
オンライン学習
機械学習の入門書はたくさん出ていますが、私は、主にPyQというオンラインサービスの機械学習コースを受講して、概要を一通り学習しました。
機械学習やプログラミングのオンラインでの勉強方法は、「Python オンラインスクール」などで検索すれば網羅的に情報を集められると思いますので、私が実際に体験したものに限って、簡単にご紹介します。本を見ながらプログラミングをするのは、物理的な本の厚みなどもあって意外と面倒ですが、これらのサービスは、画面上に表示されるプログラムを見ながらの学習になるので、とても楽です。またブラウザ上で操作するため、プログラミングのための環境構築も不要で、思い立ってから5分もかからずに学習をスタートできます。
なお、以下の情報はいずれも2019年5月現在のものとなります。
Progate
Progateは、完全なる初心者向けのオンライン学習サービスで、Pythonに限らず、JavaやRuby、PHPなど様々なプログラミング言語を学習することができます。私はPythonそのものの知識がなかったため、まずはProgateでPythonの文法について学習しました。
Progateは初心者が挫折しない工夫が随所に感じられ、特にプログラミング初心者にはオススメです。さらに、コースの一部は無料で受講できますので、最初の一歩として始めるには最適です。たとえば、Pythonのコースは全5コースありますが、最初の1コース目は無料です。
有料プランも980円(税込)/月と非常に安価で、全てのプログラム言語の学習コンテンツを利用できます。Pythonのコースの所要時間は約10~15時間ですので、その気になれば週末の2日間、そうでなくても1ヶ月で十分完了できると思います。
簿記検定でたとえると、ここまで終わらせると、日商簿記3級のテキストを読み終えたくらいのレベルに到達できる、というイメージかと思います。
PyQ
PyQでは、Pythonの基本的なプログラミングから、データ分析、機械学習など応用的な使い方まで、幅広く学習できます。Progate同様、画面を見ながら、自分で手を動かしてブラウザ上でプログラムを書いていく写経が中心であり、ストレスなく大量のコードを書くことで、効率よく学習を進められます。料金は2,980円(税込)/月で、PyQの全ての学習コンテンツを利用することができます。
機械学習に関しては、
といったコースがあり、上記の項目を学習することができます(基本的に数学の知識は不要です)。ProgateでPythonの文法の基本を学んだとはいえ、まだPythonのプログラムに慣れていない方は、
などのコースでPythonでのプログラミングの経験を積んでから、機械学習コースに進んでも良いと思います。なお、機械学習を経験するだけであれば、「Python中級」コースまでは取り組まなくても大丈夫だと思います。
PyQでPythonの復習や機械学習のコースを終わらせるのに、大体50~60時間くらいかかると思います。簿記検定で例えると、ここまで終わらせると、日商簿記2級にギリギリ合格できるくらいのレベル(≒実務のエントリーレベル)に到達できる、というイメージかと思います。
Chainer チュートリアル
日本唯一のユニコーン(企業価値10億ドル以上で未上場の企業)として名高い、東大発AIベンチャーの㈱Preferred Networks。ディープラーニング用のライブラリChainerを開発していることでも有名ですが、Python の基礎から、機械学習・ディープラーニングの理論の基礎とコーディングまでを幅広く解説する学習コンテンツを、2019年4月10日に無料公開しています。同社が機械学習・ディープラーニングの入門として必要最低限と考えている領域をカバーしています。
大学の講義資料として利用されることも想定しているようで、理科系の大学学部生以上が対象であることから、ハードルがやや高いですが、私自身は今後この教材を用いて学習を進めてみたいと考えています。具体的には、以下のような項目を学習できます(一部は現在制作中)。
- 準備編
- 機械学習とデータ分析入門
- 回帰分析
- NumPy、Pandas、scikit-learn等入門
- ディープラーニング入門
- ニューラルネットワークの基礎
- Chainerの基礎・応用
- 画像認識
- 自然言語処理
- 深層強化学習
- デプロイ
Pythonでの機械学習の流れ
Pythonのライブラリ(pandas, scikit-learn)を用いると、基本的には以下のステップで機械学習を行うことができます。csv形式のデータファイルから機械学習で分類(classification)*4を行うことを念頭に、プログラムと合わせて手順を紹介します。プログラムの説明は割愛しますが、簡単であることを実感していただければと思います。
1. データを読み込む
pandasのread_csv関数で、csvファイルを読み込み、説明変数Xと目的変数yを取得します*5。説明変数Xから目的変数yを予測するモデル(y = f(X)という関係)を機械学習で構築することが目的となります。なお、Pythonの慣例として、説明変数は大文字、目的変数は小文字にします。
import pandas as pd df = pd.read_csv('sample.csv') df.head() # 読み込んだデータの内容の一部を確認 X = df.iloc[:, :-1].values # 最後の列以外の全列を説明変数と仮定 y = df.iloc[:, -1].values # 最後の列を目的変数と仮定
2. 学習用、テスト用にデータを分割する
scikit-learn のtrain_test_split関数を用いることで、簡単にデータを学習用とテスト用に分割できます*6。
from sklearn.model_selection import train_test_split (X_train, X_test, y_train, y_test) = train_test_split(X, y, test_size=0.3)
3. 機械学習のモデルを作成する
scikit-learn のLogisticRegression(ロジスティック回帰)など、機械学習の様々なモデルを簡単に作成できます。例として代表的な3つのアルゴリズムについてプログラムを紹介しますが*7、それぞれの内容についての説明は割愛します*8。
# ロジスティック回帰を用いる場合 from sklearn.linear_model import LogisticRegression clf = LogisticRegression(C=10) # Cは逆正則化パラメーター # 決定木を用いる場合 from sklearn.tree import DecisionTreeClassifier clf = DecisionTreeClassifier(max_depth=3) # max_depthは決定木の深さ # サポートベクターマシンを用いる場合 from sklearn.svm import SVC clf = SVC()
4. 学習を行い、モデルをテストする
学習用データにfit関数を用いることで簡単に学習できます*9。その後、テスト用データにscore関数を用いることで、モデルの精度(正解率)が計算できます。predict関数を用いた予測もできます。
clf.fit(X_train, y_train) # 学習用データで学習 clf.score(X_test, y_test) # テスト用データでテスト clf.predict([[...]]) # 任意のインプットを用いて予測
このように、Pythonのオープンソース機械学習ライブラリを利用すると、約10行程度のコードを書くだけで、誰でも簡単に、無料で機械学習が出来てしまいます*10。これはとても凄いことだと思います。詳細は割愛しますが、Pythonの実行環境も簡単に作ることができますので、興味のある方は試してみてください*11。
おわりに
この記事では、機械学習の具体的な学習方法と簡単な実装について書きましたが、もう少し突っ込んだ機械学習の内容そのものについては、また別の機会があれば、書いてみたいと思います。
今の時代、やる気さえあれば、多くのことは低コストで学習することができます。インターネットのおかげで良い時代になりましたが、逆に「やらない」ことの言い訳ができない、という点では厳しい時代かもしれません。「やるか、やらないか」だけの話ですが、あまり気負わす、専門外であっても興味のあることから気軽に取り組んでいくのが良いのではないかと思います。
*1:たとえば、「猫」「犬」など動物の写真を大量に学習させて、未知の写真に対してどの動物が映っているかを判定させる、など。
*2:「囲碁は、将棋よりもさらに盤面の組み合わせが膨大になるので、人工知能が人間に追いつくにはまだしばらく時間がかかりそうだ。」(p.80)と、囲碁に関する記述など時代遅れになっていますが、専門家の創造を上回るスピードでAIが進化している証左であると思います。
*3:私も大学時代にjavaの入門講義を受けてプログラムを少しかじりましたが、いきなりpublic static void main(String[] args)という謎の呪文を書かされてうんざりしたのを覚えています。しかし、Pythonではそのようなことはありません。単にprint(‘〇〇’)と書けば、「〇〇」と出力されます。
*4:分類とは、正解となるカテゴリー(「正」「誤」、「合」「否」など)と入力データの組み合わせから学習し、未知のデータからカテゴリーを予測する手法を指します。それ以外の機械学習の分野として、回帰(連続値の予測)、クラスタリング(グループ化)などの手法があり、これらについても分類と同じようにPythonのライブラリを利用できます。
*5:プログラム中、ilocは、[ ]を用いて [取り出す行, 取り出す列] を指定しています。全てを表すには’:’、最初から最後1つ前までは’:-1’、などと表すことができます。
*6:全てのデータを使って学習して、同じデータでテストしても意味がないので、事前にデータを分割する必要があります。プログラム中、test_sizeにてテスト用データとする割合を指定しています。
*7:モデルのことを分類器(classifier)と呼び、プログラム上はclfで示しています。
*8:プログラム中の C や max_depth はハイパーパラメータと呼ばれ、過学習を防ぐために設定しています(プログラム上省略も可)。実際には、クロスバリデーションによりチューニングする必要がありますが、ここでは暫定的な値を入力しています。
*9:厳密には、学習用データを訓練用データ(training data)、検証用データ(validation data)に分割し、検証用データに対して試行錯誤を繰り返すことで、ハイパーパラメータ(過学習を防ぐための、ロジスティック回帰のCや、決定木のmax_depthなど)をチューニングする必要があります。これをクロスバリデーション(交差検証)と呼び、cross_validate、cross_val_scoreなど便利な関数が用意されています。
*10:もちろん実務で活用する際には、アルゴリズムの選定や、データの加工(前処理)、特徴量の設計その他の試行錯誤等で多大な時間を要します。
*11:インターネット上で検索するとPythonの実行環境を作る方法について、簡単な解説がたくさん見つかると思います。たとえば、Anacondaというディストリビューション(Pythonの必要なライブラリをまとめたもの)をインストールするだけで、簡単にPythonで機械学習を実行する環境を構築できます。
IFRS概念フレームワークについて
GW前に、IFRSの概念フレームワークの研修を受ける機会がありましたので、備忘を兼ねて、現時点の私の理解を簡単にまとめてみます。厳密な記述ではない点にご注意いただきつつ、ざっくりと内容を把握したい方のご参考になればと思います。
なお、IFRSの概念フレームワークは2018年に改正されていますので、改正後の概念フレームワークをベースにしています。
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概念フレームワークとは
そもそも概念フレームワークは、会計基準を演繹的に導出するための基礎となるものです。つまり、財務報告の目的などといった抽象的な概念を定義した上で、これに整合するように会計基準を制定するという考え方がベースにあります。とは言え、実際の会計基準は、会計実務をベースに、一般に公正妥当と認められるものをまとめる形で帰納的に作成されているのが実態ですので、必ずしも全てのIFRSの会計基準が概念フレームワークと整合するわけではありません。そのため、IFRSの中に、IFRS概念フレームワーク自体は含まれていません*1。概念フレームワークは「IFRSの憲法」などと呼ばれることもありますが、これはあまり正確ではありません。
概念フレームワークにおける主要な質的特性
IFRSにおける財務報告は、投資家が意思決定を行う際に有用な財務情報を提供することを目的としています*2。かみ砕いて言えば、投資家が企業の事業価値を評価して投資判断を行う際に役立つ情報を提供することが目的です。この「意思決定に対する有用性」を満たすために、概念フレームワークでは、以下の主要な質的特性(とその構成要素)が定められています。(2018年改正においては、項目に変更はありません)
<1989年公表の概念フレームワーク>
- 目的適合性/関連性(Relevance)
- 信頼性(Reliability)
- 表現の忠実性(Faithful representation)
- 実質優先(Substance over form)
- 中立性(Neutrality)
- 慎重性(Prudence)
- 完全性(Completeness)
- 比較可能性(Comparability)
- 理解可能性(Understandability)
<2010年改正の概念フレームワーク>
- 目的適合性/関連性(Relevance)
- 忠実な表現(Faithful representation)
- 重要な誤謬の不存在(Freedom from material error)
- 中立性(Neutrality)
- 完全性(Completeness)
Relevanceは訳しにくい言葉なので、「レリバンス」とそのままカタカナで表記されることも多いです。
さて、両者を比較すると、2010年度の概念フレームワークからは「信頼性」がなくなりました。これは「信頼性」という用語が多義的であり誤解を招きやすいため、削除したとのことです。一方、「慎重性」(≒保守主義)については、行き過ぎると「忠実な表現」を損なうおそれがあるという理由で、削除されています。これにより、IFRSではいわゆる保守主義による会計処理が認められないと考えられていますが、2018年の改正により、慎重性を「注意深さとしての慎重性」「非対称な慎重性(=資産と負債の認識基準が異なること)」に分けた上で、「注意深さとしての慎重性」は「中立性」の実現に役立つとのコメントが追記されました。
目的適合性と忠実な表現
IFRS概念フレームワークでは、二つの質的特性のうち、「忠実な表現」よりも「目的適合性」を重視していると解されています。非常にざっくり言うと、「忠実な表現」は客観的な取得原価ベース、「目的適合性」は主観的な公正価値ベースを志向していると考えられます。客観性の高い取得原価よりも、時価や経営者の最善の見積りを反映させた公正価値の方が、事業価値の算定(←これがIFRSの目的です)のためには有用だからです。見積もりの不確実性が高いと「忠実な表現」でなくなりますが、もし「目的適合性」が高く、有用な情報を提供すると考えられれば、IFRSでは会計処理が認められる可能性があります。究極的には、「自己創設のれん」のようなものも、一定の「忠実な表現」があると判断されれば、B/Sに計上可能となるかもしれません*3。
取得原価と公正価値(時価)の関係については、以下のエントリーでも紹介しましたので、興味のある方はご覧ください。
*1:IFRSの定めとIFRS概念フレームワークとが整合しない場合、IFRSの定めが優先されます。
*2:一般に財務諸表の利用者として、投資家以外にも、債権者や取引先、政府などが想定されますが、IFRSでは投資家を主たる利用者として位置付けていると考えられます。
*3:自己創設のれん(internally generated goodwill)は、日本基準はもちろん、現行のIFRSにおいても計上が禁止されています。これは、自己創設のれんが、信頼性をもって原価を測定できるような資産ではないからです。一方、自己創設無形資産(internally generated intangible assets)について、研究フェーズから生じた無形資産は、日本基準でもIFRSでも資産計上できませんが、開発フェーズから生じた無形資産については、日本基準では計上不可(研究開発費はすべて費用計上)ですが、IFRSでは一定の要件を満たす場合には、無形資産として計上することができます。
経理マンはAIに職を奪われるのか?
最近は人工知能(AI)が職を奪うとして話題となっていますが、特に経理の仕事はその筆頭に挙げられます。本当でしょうか?ここでは経理業務の筆頭として、決算業務について少し考えてみたいと思います。
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請求書の処理はAIで代替できるか?
決算業務の中でも、もっとも頻度が多いと思われる請求書の処理についてまず考えてみましょう。請求書が到着したら、相手先と金額、振込先、振込期日を確認するとともに、相手先や明細から費目(消耗品費やシステム費など)を判断して、仕訳伝票を作成します。費目によって消費税の税抜/税込も判断します。ここまでは比較的単純作業のため、AIで代替できる(すでに一部実用化されている?)のではないかと思います。しかし、請求書に基づく処理はこれだけなのでしょうか?
そもそも支払ってOKなのかどうか?
仕訳伝票を作成する前に、そもそもの話として、その請求書にしたがって本当に支払いを行ってOKなのかどうか、見積書や注文書で金額を確認し、納品書や検収書で検収が完了していることを確認する必要があります。注文書と異なる金額で請求される、検収していないのに請求書が先に発行される、そもそも契約をまだ締結していなかった…等々といったケースもあり得ます。
その請求書は費用処理して良いのか?
会計ルール上、基本的には検収した時点で費用計上することになりますが、検収前に代金(の一部)を支払うのであれば「前渡金」になりますし、一定期間の費用をまとめて前払いするのであれば「前払費用」になります。どの勘定科目で処理すべきかは、請求書だけではなく対応する契約書を確認する必要がありますし、場合によっては、取引の実態を現場の担当者にヒアリングして確認する必要があるかもしれません。たとえば、まとまった案件のうち、部分的な検収に基づき請求がなされた場合、部分検収として費用計上するのか、前渡金として最終検収まで費用を繰り延べるのか、経済的実態や社内ルールに照らして判断する必要があります。
その他、請求書に記載された物品が、費用でなく固定資産として計上すべきものである可能性もあります。詳細は割愛しますが、固定資産の場合は、どの範囲までを取得原価に含めるか等、税法上の論点も含めて、多くの判断が必要になります。
このように、簡単そうな請求書一枚の処理を考えてみても、なかなか一筋縄ではいかないのです。
請求書が発行されない or 未着のケースも
実際には、契約に基づく請求であって請求書が発行されないケースもありますし、また請求書自体の入手が遅れているケースもあります。それでも、経理としては漏れなく対応する必要があり、「請求書が回ってこなかったから、処理が漏れました」では言い訳にならないのです*1。常に他部署のキーパーソンとコミュニケーションを取って、社内の大きな取引の発生やその進捗を事前に把握して、取引の発生を認識できずに計上が漏れている仕訳がないかどうか、モニタリングすることが求められます。
結論
今回は、請求書に関連するありふれた処理に限定して考えてみましたが、それでも、処理の大部分を自動化するのは、当面の間は難しいように思います。紙の請求書の内容を単純にExcelに打ち込むような業務であれば、現在の特化型AIで代替可能*2かもしれませんが、経理の業務はそれだけではありません*3。逆に、契約書を読み込んで理解し、メール履歴等から取引の実態を把握したうえで、会計基準や社内ルールにしたがって、あるべき会計処理を自動的に判断して仕訳伝票を作成できるようなAIが開発されれば、実現可能なのかもしれませんが、このような経理業務をほとんど代替的できるレベルの汎用AIが開発されている頃には、経理に限らずすでに大部分の世の中の仕事はAIに置き換えられているのではないでしょうか。
監査人(公認会計士)はAIに職を奪われるのか?
ところで、監査人(公認会計士)はAIによって取って代わられてしまうのでしょうか。私の答えは経理マン同様「NO」なのですが、実はこの点を取り扱った報告書「次世代の監査への展望と課題」が2019年1月31日に日本公認会計士協会より公表されています。報告書の「はじめに」より一部引用します。(太字下線は筆者による)
監査業務は本来、企業の活動というアナログかつ常に新たな取組を含むものが、財務諸表というある種デジタル的なものに変換されて適切に表現されているかどうかを確認することであり、そこには、例えば新規の取引に対する会計基準の適用といった、前例のない高度な判断が求められる。
監査業務はそんなに簡単ではないということですが、監査人の仕事がAIに奪われるかどうかについては、報告書p30に以下の通り記載があります。
AIが監査人の仕事を奪うという話があるが、過去、定型的な計算処理といったものをコンピュータが代替するようになったように、AIは多少複雑な業務を代替するようになっていくというのが現状の流れである。言うまでもなく、監査人が監査するのは、企業の活動という事実と会計上の慣習と経営者の判断との総合的産物である財務諸表である。監査人の対峙するのが、経営者の判断が含まれた財務諸表である以上、現時点で、監査人がAIに取って代わられるというよりも、AIはより高度な監査を支えるツールとしての役割が大きいと考えられる。
私も同意見です。ただし、この報告書にも記載がありますが、これからの監査人は、AIツール(およびAI専門家)から出力される分析結果を活用するための一定レベルのAIリテラシー(統計学の素養や機械学習の知識など)が求められることになりそうなので、これらに苦手意識がある監査人は、中長期的には仕事を続けるのが難しくなるかもしれません。
機械学習については、以下のエントリーでも少し解説しましたので、興味のある方はご覧ください。
なお、世の中では、「経理・会計業務は単純作業だからすぐにAIに代替される」「経理マンは近いうちに失業する」などと多くの著名人、知識人が言及していますが、やはり会計の世界についてあまりご存知ない方々なのだろうと思います。このような言説を見るたびに、いくら優秀な(大きな業績のある)著名人の言説であっても、その方の専門分野に関する内容でない限り、安易に信用することはできない、という当たり前のことを改めて認識させられます。もちろん、会計をバックグラウンドとする私の見解が視野狭窄に陥っており、これらの言説が正しい可能性もあると思いますので、どちらの考えが正しいかについては、読者の皆さまのご判断に委ねたいと思います。
*1:もちろん経理にも重要性の概念がありますので、重要性が乏しければこの限りではありません。
*2:この処理も、様々な様式の請求書から一定の情報を抜き出すためには、文字認識を含む高度な技術が必要であり、実用化すれば人間を単純作業から解放することができますので、大いに意義のあることです。いわゆるクラウド会計ソフトでは、請求書や領収書の画像データから自動仕訳を作成するようなので、すでに実務レベルに達している可能性があります。
*3:ここでは触れませんでしたが、会計監査を受けるような比較的大きな会社であれば、もっと難しい決算業務がたくさん登場します。連結決算もありますし、それ以外でも、たとえば、様々な見積項目(固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、非上場株式の評価、…etc.)や複雑な取引の収益認識のタイミング等について、監査人と協議を重ねつつ、社内調整を進めて落としどころを探るなど、社内社外とのコミュニケーションに基づく判断が求められるため、ますますAIによる自動化は難しいでしょう。
監査人の経験は経理実務の役に立つか?
私は上場事業会社で経理マンとして働いていますが、前職では大手監査法人で監査の仕事をしていました。ここでは、監査人の経験が事業会社の経理業務に活かせるかどうか、私の経験をもとに簡単に書いてみたいと思います。
なお、ここでは狭い意味の経理業務に限定するため、財務や出納については記載を割愛します。
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
この記事には以下の内容が書かれています。
経理業務とは
経理(Accounting)の仕事と一言で言っても、その会社の規模によって役割範囲は大きく異なります。Accountingとしての、より広い概念として「会計」を考えると、会計に関する業務として、大きく下記の3つの領域があると考えています。
- 財務会計(Financial accounting)
- 決算、開示など
- 管理会計(Management accounting)
- 原価計算、予算管理など
- 税務会計(Tax accounting)
- 税務申告書作成など
小さな会社であれば、上記の全てを経理が行いますが、大きな会社であれば、財務会計は経理課、管理会計は経営企画課、税務会計は税務課、などと部署が分かれているケースもあると思います。
監査人の経験が活かせるのは?
では、これらの中で、監査人の経験が活かせるのはどの分野でしょうか?
結論から言えば、財務会計は監査人の経験をそのまま利用できます。今まで監査人としてチェックしていたものを、経理として社内で作成・チェックするというだけで、チェック項目が変わるわけではありません*1。税務会計も申告書の作成など最初は慣れないところがあるものの、一応の知識があるので、顧問税理士などの助けも借りつつ、何とかなります。しかし、管理会計に関しては、残念ながら監査人の経験はあまり役に立ちません。というのも、監査では管理会計の検証はほとんど行わないからです。たとえば予算管理について、実施有無など通り一遍のチェックはするかもしれませんが、その中身(予算編成のやり方)まで突っ込んで監査することは(GC注記でもついてない限り)ほとんどないでしょう。
しかし、管理会計こそが経営に直結する会計であり、経理として頭を使って付加価値を付ける箇所だと思います。事業会社の経理マンとしては、この管理会計領域を強化していく必要があると強く感じています。
監査人と経理マンの共通点
経理を含む管理系の仕事は、一言で言えば「会社を取り巻くリスクを早期に発見・識別し、対応する」ことであると言えると思います(法務部であれば法務リスク、人事部であれば労務リスク、等々)。そのため、会社を取り巻く内部環境、外部環境の変化(新たな取引の発生など)を日々モニタリングすることが求められます。リスクの評価は、リスク・アプローチを是とする監査人にとっても最重要の課題でしたが、これはまた事業会社の経理も同じであるように思います。社内の変化や新たな取引の発生を適時に把握し、会計上・税務上および内部統制面のリスクを早期に識別し、対応をとらなければ、会社の存続が危うくなるおそれがあるのです。
ようこそ令和。Blogはじめました。
今日から令和元年がスタートしました。元号改正は、全国民を強制的に気分一新させるすごい仕組みだと思います。これを機に新しいことを始めようと思う人も多いのではないでしょうか?
ということで、私もBlogを始めてみることにしました。日々の気づきや書籍から学んだこと、最近考えていることなどを、備忘録も兼ねてざっくりと書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。