IFRS概念フレームワークについて
GW前に、IFRSの概念フレームワークの研修を受ける機会がありましたので、備忘を兼ねて、現時点の私の理解を簡単にまとめてみます。厳密な記述ではない点にご注意いただきつつ、ざっくりと内容を把握したい方のご参考になればと思います。
なお、IFRSの概念フレームワークは2018年に改正されていますので、改正後の概念フレームワークをベースにしています。
この記事は主に以下の方に向けて書かれています。
この記事には以下の内容が書かれています。
概念フレームワークとは
そもそも概念フレームワークは、会計基準を演繹的に導出するための基礎となるものです。つまり、財務報告の目的などといった抽象的な概念を定義した上で、これに整合するように会計基準を制定するという考え方がベースにあります。とは言え、実際の会計基準は、会計実務をベースに、一般に公正妥当と認められるものをまとめる形で帰納的に作成されているのが実態ですので、必ずしも全てのIFRSの会計基準が概念フレームワークと整合するわけではありません。そのため、IFRSの中に、IFRS概念フレームワーク自体は含まれていません*1。概念フレームワークは「IFRSの憲法」などと呼ばれることもありますが、これはあまり正確ではありません。
概念フレームワークにおける主要な質的特性
IFRSにおける財務報告は、投資家が意思決定を行う際に有用な財務情報を提供することを目的としています*2。かみ砕いて言えば、投資家が企業の事業価値を評価して投資判断を行う際に役立つ情報を提供することが目的です。この「意思決定に対する有用性」を満たすために、概念フレームワークでは、以下の主要な質的特性(とその構成要素)が定められています。(2018年改正においては、項目に変更はありません)
<1989年公表の概念フレームワーク>
- 目的適合性/関連性(Relevance)
- 信頼性(Reliability)
- 表現の忠実性(Faithful representation)
- 実質優先(Substance over form)
- 中立性(Neutrality)
- 慎重性(Prudence)
- 完全性(Completeness)
- 比較可能性(Comparability)
- 理解可能性(Understandability)
<2010年改正の概念フレームワーク>
- 目的適合性/関連性(Relevance)
- 忠実な表現(Faithful representation)
- 重要な誤謬の不存在(Freedom from material error)
- 中立性(Neutrality)
- 完全性(Completeness)
Relevanceは訳しにくい言葉なので、「レリバンス」とそのままカタカナで表記されることも多いです。
さて、両者を比較すると、2010年度の概念フレームワークからは「信頼性」がなくなりました。これは「信頼性」という用語が多義的であり誤解を招きやすいため、削除したとのことです。一方、「慎重性」(≒保守主義)については、行き過ぎると「忠実な表現」を損なうおそれがあるという理由で、削除されています。これにより、IFRSではいわゆる保守主義による会計処理が認められないと考えられていますが、2018年の改正により、慎重性を「注意深さとしての慎重性」「非対称な慎重性(=資産と負債の認識基準が異なること)」に分けた上で、「注意深さとしての慎重性」は「中立性」の実現に役立つとのコメントが追記されました。
目的適合性と忠実な表現
IFRS概念フレームワークでは、二つの質的特性のうち、「忠実な表現」よりも「目的適合性」を重視していると解されています。非常にざっくり言うと、「忠実な表現」は客観的な取得原価ベース、「目的適合性」は主観的な公正価値ベースを志向していると考えられます。客観性の高い取得原価よりも、時価や経営者の最善の見積りを反映させた公正価値の方が、事業価値の算定(←これがIFRSの目的です)のためには有用だからです。見積もりの不確実性が高いと「忠実な表現」でなくなりますが、もし「目的適合性」が高く、有用な情報を提供すると考えられれば、IFRSでは会計処理が認められる可能性があります。究極的には、「自己創設のれん」のようなものも、一定の「忠実な表現」があると判断されれば、B/Sに計上可能となるかもしれません*3。
取得原価と公正価値(時価)の関係については、以下のエントリーでも紹介しましたので、興味のある方はご覧ください。
*1:IFRSの定めとIFRS概念フレームワークとが整合しない場合、IFRSの定めが優先されます。
*2:一般に財務諸表の利用者として、投資家以外にも、債権者や取引先、政府などが想定されますが、IFRSでは投資家を主たる利用者として位置付けていると考えられます。
*3:自己創設のれん(internally generated goodwill)は、日本基準はもちろん、現行のIFRSにおいても計上が禁止されています。これは、自己創設のれんが、信頼性をもって原価を測定できるような資産ではないからです。一方、自己創設無形資産(internally generated intangible assets)について、研究フェーズから生じた無形資産は、日本基準でもIFRSでも資産計上できませんが、開発フェーズから生じた無形資産については、日本基準では計上不可(研究開発費はすべて費用計上)ですが、IFRSでは一定の要件を満たす場合には、無形資産として計上することができます。