『CFO 最先端を行く経営管理』

最近、中央経済社より刊行された『CFO 最先端を行く経営管理』という書籍を読みました。経理マンにとっても有益な内容が多数含まれていましたので、ご紹介したいと思います。

この本は昆政彦氏、大矢俊樹氏、石橋善一郎氏の3名の著者による共著ですが、うち2名(大矢氏、石橋氏)は、以前に読んだ『CFOの履歴書』(中央経済社)という本でも自らのキャリアを紹介されていた方であり、それもあって当書を手に取りました。『CFOの履歴書』はCFOキャリアを歩まれた10名のキャリアが詳しく紹介されている書籍であり、財務・経理職に携わる方のキャリアを考えるうえでおススメです。

さて、この『CFO 最先端を行く経営管理』では、CFO(Chief Financial Officer)の役割と、外資系企業ではおなじみだが日本ではあまり聞きなれないFP&A(Financial Planning and Analysis)の役割を中心に、日本企業との対比や豊富な事例、時にはアカデミックな知見を交えながら、米国企業における経営管理手法が説明されています。

著者の3名はいずれもCFOキャリアを歩まれた実務家であるとともに、現在では大学教員をされている方も含まれているため、実務とアカデミアの両方の知見が取り入れられた良書になっていると思います。特に、コラム的な事例紹介として、著者が勤務していた外資系企業における経営管理の手法等がかなり具体的に紹介されており、これを読むだけでも十分価値があると思います。

タイトルからすると、大学教授の書いた実務には直接役に立たない学術書のように思われるかもしれませんが、そんなことはまったくありません。以下では、(経理マンとして)特に参考になりそうな個所をご紹介したいと思います。

FP&A組織とは何か

FP&Aについて、私はもともと管理会計部門といった程度の認識しかありませんでしたが、当書の第1章では以下のように紹介されています。

1980年後半から米国各企業では、コントローラー*1の職務を事業部支援に傾斜して戦略的チームであるFP&A(Financial Planning and Analysis)と外部報告の財務会計を取り仕切る経理部に分割された。そして、トレジャリー(財務部)、FP&A、経理部に新たに加わったIR部や税務部をまとめて管轄するCFOの職務が誕生した。(p24)

書籍を読み進めると、著者の一人が勤務していた米インテル社の事例が紹介されています。

インテルCFO組織は…(中略)…コントローラー部門とトレジャリー部門(財務部門)に分かれる。コントローラー部門の中に財務会計を担当する組織と経営管理を担当するFP&Aと呼ばれる2つの組織がある。FP&A組織は、本社に本社コントローラーを置き、事業部制組織では事業部に、職能別組織では工場や営業所などの職能部門に事業部コントローラーを配置する。

 

事業部コントローラーを事業部長と本社CFOの両方にマトリックスでレポートさせることで、事業管理における組織の全体最適を図る。FP&A組織がCFO組織の中心にある。FP&A組織は、経営指標の実績値や予測値を適時に補足するために、業績報告書やバランスト・スコアカード等のツールを開発し、事業部長の「ビジネスパートナー」として意思決定に至る定例会議を運営し、全体最適となる意思決定を推進する役割を果たす。

 

グローバル企業ではFP&A組織は経理組織、財務組織と並ぶCFO組織の柱であり、経理社員、財務社員と同様にFP&A社員としての養成が行われている。(p114, 115)

つまりFP&A組織とは、各事業部のビジネスパートナーとして事業部長と協働するとともに、本社CFOに対しても報告を行うことで、会社戦略に基づく全体最適での経営管理を推進する組織であると考えられます。

この点、日本においては、経営管理と事業管理は別々に行われており、前者は経営企画部(戦略部)や社長室、後者は事業部内の企画課などが行っており、連携していないことが多いです。さらに、経営企画部門と財務経理部門についても、管掌役員が異なっているなど経営管理上非効率になっていることが多く、米国式の経営管理組織から学べる点は非常に多いと思いました。

CFOの役割

上記の通り、CFOにとってFP&A組織は不可欠ですが、それではCFOの役割は何か、という点について、当書では第1章において以下のように定めています*2

  • 1.企業価値の向上

    • 戦略設定と実行支援(予算・計算・M&A

    • 価値創造プロセスの推進(イノベーション経営)

  • 2.会計報告と内部統制、リスク管理

    • 決算業務、税務申告、外部受監査、内部監査

    • 内部統制、業務効率化、デジタル化

  • 3.資金管理と調達

  • 4.組織管理と企業文化のマネジメント

    • CFO組織の構築と人財育成

    • 企業文化構築:財務目標志向と不正を許さない規律

このうち、1つ目の企業価値の向上が、CFOのもっとも重要な役割となります。ここで、当書が警鐘を鳴らしているのが、Accountabilityの捉え方の取り違えです。

Accountabilityは「説明責任」のみとして理解していないだろうか。説明責任だけであれば、財務報告書を作成し、目標達成ができなかった場合には、その原因や事実を説明できれば責任は果たしたことになる。Accountabilityには、「執行責任」のみならず「結果責任」の意味もある。したがって、Accountingとは、目標必達のために使われるツールであり、CFOには「結果責任」も伴う

 

できないこと自体が問題となるので、できなかったことを論理的に事実に基づいて説明したとしても責任を全うしたことにはならないCFOが意識すべきことは、全面的に事業責任を負う社長に寄り添って経営の舵を取る以上、「説明責任」だけにとどまることは許されないことであり、「執行責任」を共有しなければ社長からの参謀としての信頼を得ることはできないだろう。したがって、会計ツールを使う目的はいかにして財務目標を達成することができるのかを考えるためであり、このことがCFOの一番重要な役割である企業価値向上の基本である。(p26, 27)

日本においては、単に「財務経理担当役員=CFO」と思われているフシもありますが、真のCFOはさらに幅広い領域を管掌するとともに、積極的に経営の結果責任にコミットし、経営管理を実践するためFP&A組織をフル活用する、そんなCFOこそが求められていると理解しました。

今後の経理部門に求められる役割

当書では、CFO組織管理に触れつつ、今後の経理部門に求められるスキルについても述べられています。

今まで経理・財務部門ではテクニカル・スキルが非常に重視されてきたが、これからは、事業部の人を動かす影響力が重視されるので、コミュニケーション力を含めたヒューマン・スキルのカテゴリーへシフトする。さらに、戦略パートナーとなる必要性から、FP&Aの上位責任者やCFOは、コンセプチュアル・スキルが最も重視されるスキルカテゴリーとなる。

 

特に、現実を的確に理解し、当事者意識をもって説得力のあるコミュニケーションが取れること、さらには、課題に対して当事者意識をもって対応するためのプロジェクトマネジメントスキルも必須である。(p95)

 

より経営判断を生かすようにするためには、過去ではなく将来の差異分析に対してアクションを立てるべきであり、将来の予測を決める能力が求められる。歴史概念の会計手法では、確定事象を見つけ出して数字を当てはめる能力が問われてきた。しかし、今後は未確定で不確実な世界での予測数字確定能力が問われてくる。このスキルは、今まで経理マンが追い求めてきたスキルとは全く異なるもので、IoT時代においても依然として人間が執り行うべき職務の中心となろう。(p160)

経理マンはこれまではアカウンティング・スペシャリストとして、深い会計知識と、高い簿記のスキルといったハードスキルがあれば、一人前だと考えられていたと思います。そして、過去の固まった数値から財務報告を作成する仕事が主であるため、どうしても過去志向になってしまう傾向がありました。

これからは、経理マンであっても、ファイナンスの要素も取り入れた未来志向の経営管理*3や、実際に事業部の人を動かして成果を出すコミュニケーション力*4などのソフトスキル、そういった方向性を意識しておくことが必要であるように思います。

上記のような内容は、この本に限らず、様々なところで指摘されていることですが、日々の業務においても意識して付加価値の高い経理マンを目指したいですね。

おわりに

以上は、『CFO 最先端を行く経営管理』に書かれている内容のごく一部について、概要を紹介したものです。もし興味のあるテーマがありそうでしたら、是非一度手に取ってご覧いただくことをおススメします。

*1:米国において、「コントローラーは、トレジャラーとともに経理・財務の基点で経営に加わり、戦略のPDCAを回す社長の右腕として経営陣の中でも重要なポジションとして位置付けられ」たものであり、「管理会計論は、コントローラーを養成するための会計教育を展開しようとする努力の中から展開されたもの」とされています。(p23)

*2:各項目の詳細については、続く第2章~第5章にて述べられています。

*3:本書では、これからの経営管理は、従来の予実分析(予算と実績の差異分析)から、予予分析(予算と予測の差異分析)に主軸を移し、予測精度を高めることが重要であると説いています。正確な予測に基づいて、全社の資源配分の見直しなど必要な是正措置の提案・実行を迅速に行い、経営効率を高めることが目的となります。

*4:たとえば、予算管理の最も重要な機能は「戦略の伝達機能」であり、予算の機能を十分に活用するためには、CFOやFP&Aは数字でストーリーを語るべくコミュニケーション能力を高める必要があるとされています。(p157)