間接法によるキャッシュ・フロー計算書の本質

経理部メンバーに間接法キャッシュ・フロー(CF)計算書の仕組みを説明するにあたり、改めてCF計算書について考えてみました。間接法CF計算書の仕組みについて知りたい方の参考になれば幸いです。

なお、ここでキャッシュ(Cash)とは基本的に現金と預金の合計を指し、キャッシュ・フロー(CF)はその変動額(キャッシュが増加すればプラス、減少すればマイナス)を指します。


この記事は主に以下の方に向けて書かれています。

この記事には以下の内容が書かれています。

  • 静態論と動態論、資産負債アプローチの考え方を絡めて、キャッシュ・フロー計算書の仕組みを説明しています。
  • 簡単な数式を用いて、間接法の考え方を説明しています。数式を用いると、営業キャッシュ・フローを求める際に、なぜ減価償却費を足す必要があるのかが明確に理解できます。

CF計算書の本質とは

そもそも、財務諸表においてBS*1とPL*2が基本となる財務表であり、CF計算書は付属的なもの(おまけ?)という認識が一般的であると思います。実際に、会社法計算書類では、BSとPL(とSS*3)についてのみ開示が求められており、CF計算書の作成は求められていません。

しかし、もともと、BSとは損益にはならないが、キャッシュに変動がある項目を記録するものです。たとえば、100万円で固定資産を購入した場合、CFは▲100万円となりますが、直ちに費用とはなりません(減価償却費として徐々に費用化されます)。その差額を記録するために、BSに100万円の資産として計上するわけです。つまり、BSはPLにおける損益とCFとの差額(ズレ)を記録するための資料です*4。こう考えると、PLとCFが中心にあって、BSが付属的であるとも考えられます。

この考え方が理解できれば、PL上の損益から、BSの差額を調整してCFを導く、間接法CF計算書の仕組みが容易に理解できるようになるはずです。

静態論と動態論、そして資産負債アプローチへ

上記は、会計学でいえば、動態論の考え方です。元々複式簿記が誕生した頃は、大航海時代におけるプロジェクト型組織の損益計算が主目的だったこともあり、BSにおいて財産の価値を表示することが重視されていましたが(静態論)、永続的な会社が誕生することで、期間損益を適正に計算すること、PLにおける損益が重視されるようになりました(動態論)*5。現在では、財務諸表の主目的が企業価値評価とされていることから(詳しくはこちらのエントリーをご覧ください)、資産負債アプローチといわれる、BSを重視する考え方が再び主流となっています。ただし、かつての静態論が「いま会社を解散したらどれだけの価値が残るか」という観点だったのに対し、資産負債アプローチは「継続する会社を前提として、企業価値評価に役立つか」という観点が重視されており、いずれもBS重視ではあるものの、内容は大きく異なります。蛇足ですが、これは、ある意味会計学弁証法的に発展していることを示す好例なのかもしれません。

間接法CF計算書の数式によるアプローチ

間接法に関しては、簡単な数式を使ったほうが、理解しやすいかもしれません。以下、数式を用いて間接法CF計算書の考え方を説明します。数式といっても、足し算と引き算しか出てきませんので、ご安心ください。

BSの貸借は一致しているので、資産A(Assets)、負債L(Liabilities)、純資産NA(Net Assets)の間に、以下の恒等式が成り立ちます(貸借対照表等式)。

A = L + NA…①

ここで資産AをキャッシュC(Cash)とそれ以外の資産A’に分解すると、

C + A’ = L + NA…②

それぞれの項目の期首と期末との差額(期末-期首)をΔ(デルタ)を付けて表現すると、当然に以下が成り立ちます*6

ΔC + ΔA’ = ΔL + ΔNA…③

このとき、ΔCはまさにCF(期首と期末との間のキャッシュの変動)を意味しており、ΔNAは特殊な項目がないとすれば、すなわち利益Profitと一致します。よって、

CF + ΔA’ = ΔL + Profit…④

移項すると、

CF = Profit - ΔA’ +ΔL…⑤

となり、間接法の損益計算書の等式が導けます。つまり、CFは、利益から(キャッシュ以外の)資産の増加額をマイナスし、負債の増加額をプラスすれば求まります。式で書くと少し仰々しいですが、よく考えれば、ごくごく当たり前の話でもあります。

営業CFを間接法で求める数式

実際のCF計算書では、CFを営業CF、財務CF、投資CFに分けたうえで、営業CFのみを間接法、それ以外を直接法で記載するのが一般的です。これも式で表現してみましょう。

CF = 営業CF + 投資CF + 財務CF…⑥

以下、簡便のために、投資CFは固定資産の取得のみ、財務CFは銀行借入のみと考えます。

キャッシュ以外の資産A’を、固定資産FA(Fixed assets)とその他の資産OA(Other assets)とに分解します。

A’ = FA + OA…⑦

負債も、借入金BL(Bank loan)とその他の負債OL(Other liabilities)とに分解します。

L = BL + OL…⑧

投資CFは、固定資産の取得によるキャッシュアウトですが、これは固定資産の増加額ΔFAに減価償却Dep(Depreciation)を足した金額となります*7。キャッシュが流出しているので、この金額にマイナス(-)をつけてキャッシュアウトとする必要があります。

投資CF = -(ΔFA + Dep) …⑨

財務CFは、銀行借入によるキャッシュインであり、これは借入金の増加額ΔBLと一致しますので、以下の式が成り立ちます。こちらはキャッシュインのため、プラス符号のままでOKです。

財務CF = ΔBL…⑩

⑥式を、⑤式に代入します。

営業CF + 投資CF + 財務CF = Profit - ΔA’ +ΔL…⑪

⑦~⑩式を、⑪に代入します。

営業CF - (ΔFA + Dep) + ΔBL = Profit - (ΔFA + ΔOA) + (ΔBL + ΔOL)

式を整理すると、以下の通りです。

営業CF = Profit + Dep - ΔOA + ΔOL…⑫

このように、営業CFを導く間接法の算式が完成します。つまり、会計上の利益に減価償却費を足して、投資CF、財務CFで調整されないBS項目の増減を加味すれば、営業CFが求まります*8

実は、なぜ営業CFを求める際に減価償却費を加算するのか、理解していない人が多いように思います。非資金項目だから、などと分かったようなことを言う人が多いですが、CFの計算において固定資産の増減を調整するのであれば、減価償却費の調整は不要になります。

以上、落ち着いて考えれば大した話ではないのですが、このように式変形を用いたCF計算書の説明をあまり見たことがありませんでしたので、簡単に記載してみました。この記事で、間接法CFの理解が深まる方がいらっしゃれば幸いです。

*1:貸借対照表

*2:損益計算書

*3:株主資本等変動計算書

*4:これを、BSは各会計期間のPLを結ぶ連結環であるなどと言います。

*5:動態論においては将来の費用が資産として計上されます。たとえば100万円の固定資産を10年で定額法で償却するとき、1年後の簿価は90万円となりますが、この金額は固定資産の価値を表しているわけではなく、将来の費用のかたまりに過ぎない、と考えるわけです。一般的な「資産」のイメージとは異なりますが、これが理解できるかどうかが、会計的な思考ができるかどうかの大きなポイントの一つだと思います。

*6:期首時点、期末時点いずれも②式が成り立つので、それらを差し引くと導出できます。

*7:たとえば期首の固定資産が100、期中の取得が30、減価償却が10であれば期末の固定資産は120です。期中の取得額は、固定資産の増加額20+減価償却10=30として求まります。

*8:今回は便宜上、固定資産の取得、銀行借入のみを想定しましたが、それ以外の投資CF、財務CFが存在したとしても、同様のロジックで説明可能です。